6話 『強欲のアルフォース』 出会い
狂歌に抱きしめれて泣いたあと会場を後にした。
警察に帰宅許可が下りた後、俺は直ぐに家に戻った。
その際に、家宝である黒刀はしっかりと返してもらう。これだけは持っていなといけない気がしたから。
両親に保険金が掛けられていた事もあり、莫大な金額の遺産が俺の手に渡った。
要らない。コレを返せば両親は生き返るのだろうか?それなら喜んで返すが・・・
はぁー。バカな考えをするのはよそう。死人は生き返らない。
★☆★☆
家に帰ると、血まみれとなっていたリギングが綺麗になっていた。
きっと俺がホテルに泊まっている間に特殊清掃員でも呼んだのだろうか。知らないが。
これから1人で過ごすことになる。
家族3人で過ごしていた家は広かった。1人になったことでさらに実感する。
家の横にある道場は無事だったようだ。いつもここで鍛錬をしていた。いつも母とここで稽古をしてた。
俺より長く生きている母は技量が凄かった。こちらの攻撃を全ていなすのだ。俺は母に勝ったことが無い。
魔物に負けた母だ。俺が勝てるわけが無いだろう。
でも、それでもやらなければならないのだ。たとえ敵わなくとも一矢報いてやると俺は決意する。
グゥゥゥ
無気力に何もない空間を見つめていると、お腹が鳴った。
「そう言えば昨日の夜から何も食べて無かったな」
食欲が無くて昨夜何も口にしなかったのを思い出す。
気だるげな身体に鞭打って、俺はコンビニで弁当を買う事にした。
★☆★☆
帰り道。
ビニール袋片手にトボトボ歩いていると、水溜まりを踏んだ。
「うわ、最悪だ。雨降ってねーのに。なんで水溜まりがあるんだよ。しかもなんか臭いし」
不快に思いスマホでライトをつけ足元を見ると、真っ赤な液体がかかっていた。鉄臭いがする。
ーーまるで血のような匂いだった。
「おい...嘘だろ...なんで血が...」
スマホのライトで道を照らすと、点々と血があった。
地道に辿っていくと、解体予定のある工場の入り口まで続いていた。
けがをした人がいるのだろうか?
気になった俺は勇気を振り出し中へ行くことを決意した。
「おいおい。大丈夫かよこの血の量」
無暗にこじ開けられた扉を前に、心配がより一層深まっていく。
意を決し中を覗くとー
「な!?」
そこには、怪我をした死にかけの魔物がいた。
その瞬間殺気が溢れ出る。
3メートルある魔物は白衣を着た狐だった。眼鏡をしていて、意外と筋肉質な体型をしている。
壁に寄りかかり、片手でお腹に穴が開いた傷を塞いでいた。
大量に出血している。死にかけだ。
(何でこんなところに魔物がいるんだ。でも、死にかけなら俺でも殺せるかもしれない。)
そう思っていると。
「そこにいるのは分かってるぞ...ニンゲン...殺気が...駄々洩れだ...ハァハァ...出てこい。」
魔物に話しかけられた。
(嘘だろ?魔物は獣並みの知能のはずだ。それが喋っているだと?ありえない。)
驚愕をしたが、言うとおりに前に出る。
「力が欲しいか?ニンゲン。」
「は?どういう意味だ。」
「君からは...復讐の匂いがする...私を見た瞬間に漏れ出た異様な殺気...普通の人間であるならば恐怖し即座に逃げるはずだ...君は逃げなかった...そして、瞳の奥に宿る憎悪の炎...我ら魔物にたいして恨みを抱いてることは明白...違うか?」
言い当てられたことに驚き硬直したが、すぐに言い返す。
「ああそうだ俺は魔物が憎い。家族を殺した触手野郎を、この手でぶっ殺してやりたい。」
「だが...魔力を持たぬ貴様では下級程度の魔物ですら危ういぞ。ハァハァ...人間の武器である銃とやらを手に入れれば下級程度、何とかなるかも知れない...だが魔物はそこまで甘くはないぞ...一部例外はいるが...中級...上級...幹部級...王級と序列がある...貴様の家族を殺した魔物は触手を持っていると言ったな...少なくとも中級クラスはあるはずだ。ハァハァ...貴様が銃を手に入れたとしても絶対に倒せぬぞ...今のままでは無理だ。復讐は諦めろ。無駄死にするだけだぞニンゲン。」
事実を言い当てられた。
「分かってるよ。俺じゃあ魔物を倒せないことは。でも、諦めきれないんだよ復讐は!たとえ敵わなかったとしても、一矢報いるって決めてんだ。俺がどうなろうがな!」
「分かっている。だから最初に問うたであろう。ハァハァ...力が欲しいか?ニンゲン」
(俺と出会った時からすでに見抜いていただと!?)
「欲しい。魔物を倒せるだけの力を。復讐できるだけの力を。」
「だが代償はあるぞ。ハァハァ...耐え難い痛みに襲われ、最悪発狂死することとなる。それでも人間を辞める覚悟はあるか小僧?」
真剣な眼差しでこちらを見つめてくる狐の魔物。
「ああかまわない。やってくれ。復讐出来ずに終わる人生は嫌だからな。」
そう答えると狐魔物は、白衣の内ポケットから試験管を渡してきた。
「飲め。適合できれば、力が手に入るであろう...死んでも恨むなよニンゲン。」
投げ飛ばされた試験管を手でキャッチした。中を見ると紫色の液体が入っている。
(これ。毒じゃないよな?でも、飲めば力が手に入るんだ。覚悟を決めよう。)
試験管の中身を一気に飲み干した。
「死ぬなよニンゲン。」
狐の魔物にそう言われたあと身体中から激痛が走った。
「があああああああああああ」
身体中が熱くて痛い。
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いー」
身体中の血管に流れる血液が熱い。熱をもって暴れているような感覚だ。
激痛にのたうち回っていると、今度は足から異変が起きた。
足が別の何かに作り変えられていくような感覚がある。激痛が走った。
骨の折れる音が聞こえる。体から鳴ってはいけない音が聞こえる。
そのたびに激痛に見舞われた。頭がおかしくなりそうだ。
「があああああああああああああああああああああああああ」
ただでさえ血液が沸騰しているような感覚で苦しいのに、足から順にどんどん変化が起きていく。
腰当たりまで変化が起きた。見ると下半身が別のものになっていた。黒い鎧のようなものになっていたのだ。
「な...なんだよこれ?があああああああああ」
痛みはさらに増していく。
それでも耐える。耐えれば力が手に入るのだから。
(耐えろ。耐えるんだ。ここで耐えれば、力が手に入るんだ。頑張るんだ俺)
変化が胸あたりまで来るとさっきの倍以上の痛みが、身体中を襲った。
「がはっ。おえええええ」
口から大量に吐血した。
とうとう変化に耐えきれなくなり、全身から血液を噴出させた後
シンジはこときれたように動かなくなった。
「やはりニンゲンでは耐えられない代物だったようだな。」
最後に見たのは、とても残念そうな顔でこちらを見てくる狐の魔物だった。
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