4話 帰宅

 放課後の学校


 1人の女子生徒がトイレの個室の中にいた。


「すーはー。すーは。ああシンジの匂いがするわ。シンジ。シンジ。シンジ。好き好き好き好き大好き。愛してる。一緒になりたい。結婚したい。お嫁さんにして。私だけのものになってー。」


 の匂いを嗅ぎながら、恍惚とした表情で男性の名前を連呼する女子生徒がいた


「もう少しの辛抱よ。高校がっこうを卒業したら結婚しましょうね。大丈夫よ。きっとうまくいくわ。あなたの為なら私はなんだってする。。」


 恍惚とした表情でブツブツと独り言を言う女子生徒


「あなたの気持ちに私が気づいてないとでも思ってた?自分から行動してくれないのなら、私からいっちゃうわよ。シンジ。」


 その後もブツブツと独り言をしていたが、ハンカチから匂いを満足するまで吸うとトイレから出た。


 彼女は、その場でをなびかせると、そのまま帰宅するのであった。




 ★☆★☆

 秋山真二視点


 冬柴美香ふゆしば みかとは久しぶりに会話した。


 幼馴染だったので、昔からよく一緒に遊んでた。


 中学校から付き合いが悪くなり、高校では俺に対して敬語を使うようになった。


 嫌われたのかと思っていた。ショックを受けていた。話しかけても、最低限の会話で終わらせるからだ。


 それからは、お互いすれ違い。会話をする機会があまりなくなった。


 たまたま今日はあちらから声をかけてくれたので、多少強引にでも会話をしようと思ったのだ。


 二人で一緒に帰るのは何だか久しぶりなこともあり、妙に気恥しい気持ちになった。


 前半は、お互いに会話がぎこちなかったが、後半からは慣れた。


 会話していく内に、美香が俺に対して避けていた理由が分かった。


「なーんだ。ただ話しかけるのが恥ずかしかっただけか。寂しかったんだよ俺。に嫌われたと思ってなー。」


「ふぇ?」


 美香が赤面しこちらをみてくる。


(ま...まずい。美香に好きことを口走ってしまった。)


「お、幼馴染だ。悪い。言い間違えた。」


「そ...そうだよね...そんな訳...ないよね...間違えたんだよね...」


 とっさに言い訳を言うと、美香は落ち込んだ様子をみせた。


 そこからお互いに気まずくなったが、ちょうど分かれ道だったので助かった。


「じゃあ。俺こっちだから。」


「うん...また明日ね」


 そこからは家が違うため、お互いに別れた。




 ★☆★☆

 冬柴美香視点


 今日は久しぶりにシンジ君と話をした。嬉しかった。


 うちが、避けていたことをシンジ君は気にしていたみたい。


 小学生の時は良かった。お互いにまだ子供だったのだから。でも、中学校、高校と学年が上がるたびにシンジ君はどんどんカッコよくなっていった。珍しい青い目にハーフ顔。当然女子達にモテていた。


 当然幼馴染である私も彼が好きだ。


 話しかけようとしたことが何回かあった。


 でも、できなかった。


 彼のことを考えたり、話したりするだけで胸がドキドキする。


 付き合いたいと恋人の関係になりたいと何度も思っていた。


 でも、どうだろうか。うちには、突出したものが何もない。シンジ君は剣道の才能がある。高校ではやってないが、中学では全国大会にいく猛者だった。英語も喋れる。狂歌ちゃんには学力がある。学校では常にトップ3位以内だ。うちから見ても綺麗だって思うし、胸も大きい。うちの幼馴染たちは凄い。それに比べ、うちには何もない。2人が羨ましかった。


 何も持っていないうちなんかが、シンジ君と釣り合うわけが無いと思っていた。


 あくまで私達3人の関係は幼馴染であり、2人にとって私は単なるおまけだと思い込んでいた。


 勝手に劣等感を抱いていたんだ。


 シンジ君には、狂歌ちゃんがお似合いだと思っていたんだ。


 だから、うちから避けてた。どうせ叶わぬ恋であるから。


 勝手に諦めていたんだ。


 でもシンジは言ったんだ。寂しかったと。初恋の相手だったと。


 嬉しかった。


 過去形とはいえ、うちなんかを好きでいてくれたんだ。


 きっとシンジは今、狂歌ちゃんが好きなんだろう。


 でも、やっぱり負けたくない。諦めきれない。


 何も言わずに狂歌ちゃんにシンジ君を取られるくらいなら、気持ちを伝えよう。


 シンジ君が好きだということを。


 帰り道のなかでそっと決意する美香であった。




 ★☆★☆


「いやー変なことを口走ったせいで、気まずかったな。」


 美香と別れたあと、帰り道で独り言を言うシンジ


 後ろからサイレンの音が聞こえた


「ん?なんだ?この近くで事件か?」


 目の前にパトカーや救急車などが数台横切った。


 自分には関係ないと思ったため、気にしなかった。


 もうすぐ家につこうとした時、近所に人だかりができていた。


 近所の家の前には黄色いテープがはられ、警察官が数人いた。


 野次馬が沢山いたので、近くの男性に聞いた。


「あのー。すみません。何かあったんですか?」


 急に話しかけられ、一瞬驚いてたが、中年の男性は答えてくれた。


「ああ。何でも魔物がここ周辺で現れたみたいでね。からも犠牲者が出てるんだよ。まったく物騒な世の中になったなー。ヒーローどもは何をしているんだか。」


(おい...今...なんて言った...近所の家もだと?)


 俺は不安になり、急いで家に向かった。


 走っている最中に何件もの家を見た。


 そこには、野次馬と警察官たちがいた。きっと犠牲者がいたのであろう。


 きっと大丈夫だ。家族は無事だと。心の中で祈りながら家のまえにつく。


 そこには案の定、警察官数名と野次馬達。そして立ち入り禁止の黄色いテープがはられていた。


 嫌な予感がした。


 野次馬達をかき分け前に進んでいく。


 テープを下からくぐり抜け、家の中に入る。


「おい、きみ!家の中に入ってはいかん。」


「おい。中に入らせるな。止めろー」


 と後ろから複数の警官たちが止めに入ろうする。


 俺は制止を振り切り、家の中に入った。


「おい...う...そだろ...」


 絶望し膝をつく。


 そこには、血まみれのリビングに、父と母の切断された頭部と、食い荒らされた死体があったのだった。

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