8
いつもの様に、中庭のベンチに二人並んで空を見上げた。
『ヒカゲには大切な人がいる?』
『大切……?』
『うん。私はいたよ。だけど死んじゃった……でもね』
ヒカゲの前へと立ち、頬を撫でる。その瞳はとても透き通っていて、ヒカゲは目が離せなかった。その瞳が変わってしまうことを知らなかった。願いを聞き入れた所為で、消えてしまった存在。埋める事のできない空虚な心。
──ずっと、どうでもいい事だって思ってたのに……なんでこんなにも、苦しくなるの?
見えない何かがヒカゲの胸を
「話疲れて寝てしまったか。まともに人と話したのは何年振りか」
光を
──悲しい話だが、人と言葉を交えるのは、やはり良いなぁ
寝てしまったヒカゲの頬を伝う涙をキャロルはそっと拭う。やはり、キャロルの言葉には寂しさが残った。
あれから何時間、時が進んだのだろうか。変わらぬ赤い月を下。目が覚めたヒカゲを囲む大きな薄桃色の毛並み。それは、他の獣からヒカゲを護るように。
「目が覚めたか、ヒカゲ」
「俺……いつのまに」
話をしている合間に寝ていた事に驚くヒカゲをよそに、キャロルは立ち上がり、背の高い木々が集まる方へと歩み出す。
「話をしてくれたお礼だ。この森から出してやろう。付いてくると良い」
そう言い、背の高い木々の合間を縫って入っていく。その後をヒカゲは追う。数分歩き続けると、キャロルは足を止めた。
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