7
──俺はこれから、お前と別れることも知らずに、仮初めの日々を生きている
日に日にアカツキが染まって行く。血に塗れた素顔を晒す。全て返り血である。殺人鬼と呼ばれるまでそう時間はかからなかった。
そんなアカツキの姿を知らず、一週間が過ぎた頃、ヒカゲは再びコロシアムへと立っていた。そして、眼前に迫る鎌を持つ血濡れた少女を見て、唖然とした。
「あ、アカツキ?」
言葉なく、問答無用でヒカゲへと鎌を振り下ろす。何故こうなってしまったのか。そんな事を考える暇もなくアカツキは、鎌を振り続ける。
──もう、お前の笑顔を見る事は叶わないのだろうか。一緒に話して、一緒に笑う日々を過ごすことは叶わないだろうか……
仮初めの日々。それは、ヒカゲにとって一番の大切な時間であった。こんな時に思い出してしまう。あの日の約束を。
『ヒカゲっお願い……聞いてっ』
初めて人を殺めたその晩、アカツキはヒカゲの元に泣きながら抱きついてきたのだ。
──初めて見せた涙に戸惑った。いつも強気で優しいアカツキが、俺に頼み事をしてきたからだ
『もし、私が誰かを傷つけるような事をしたら絶対に止めてっ』
──今思うと、何でそんな頼みを聞いたのかと後悔してる。今更、後悔しても遅いのに……
アカツキは、ヒカゲに向かって真正面から突っ込んで来る。ヒカゲは拳を握り締め、殺人鬼と化したアカツキを待ち構える。アカツキが鎌を横振りにして、ヒカゲに攻撃を入れる。一振りしただけで、突風が吹き起こる勢いだ。
しかし、ヒカゲはその攻撃を姿勢を低くして辛うじて避け、アカツキの胸を素手で貫いた。
血肉が裂ける感触、飛び散る血飛沫はヒカゲを頬を赤く染める。その瞬間、ヒカゲの枷が砕けた。アカツキの最後の一撃、それはヒカゲの心の重みとなっていた枷を砕く事。地に倒れるアカツキを抱きとめ、ヒカゲは涙にを零した。
「俺は、自分を消したい……大切な人を守れない、弱い自分をっ」
「違うよっ」
その声を聞いた時、アカツキはいつもの優しい紫根の瞳に戻っていた。正気に戻ったのだ。
「弱さを許す事っそれが本当の強さ……君は強いっ私が、知ってるよっ」
「アカツキっ」
「お願い……聞いてくれて、ありがとっ」
「な、んでっこんな……」
弱々しく、微笑むアカツキにヒカゲは涙を止める事が出来なかった。アカツキを傷つけてしまった事に、罪悪感が残る。今まで忘れていた感情が蘇るように。
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