6
ヒカゲは大歓声の中にいる。勝ったのだ、命とのやり取りに。この勝利には一つの死が欠かせない、相手の戦闘奴隷を殺したのだ。
コロシアムは毎度、貴族や豪族の大歓声に満ちている。
何故笑うのかが分らなかった。この様な場で笑いなど必要なのか。人が死んだのだ。その生き様を笑う事を許される程の者達なのか。
「ヒカゲ、良くやったな」
「はい」
──いや、俺も彼奴らと同類なんだ
自分が生きる為に相手を殺した。その生に終止符を打ってしまったのだ。
夜も明ける頃、いつもの様に中庭で身体を
「ヒカゲ!」
ヒカゲの前へと現れた少女、アカツキははんなりと微笑み、ヒカゲの隣へと腰をかける。
「昨日ね、お頭さんが稽古つけてくれたんだけど、失敗ばかりして怒られちゃった」
明朝からこんな他愛のない話を一方的にするアカツキ。こんな日々が数週間続いた。アカツキは、剣もそこそこ扱える程になった。しかし、主はアカツキを一度も実戦へとは出さなかった。ヒカゲは一週間もしない内に実戦へと出されたのだが。アカツキはいつも、笑顔を絶やさない少女だ。そんなアカツキにいつもヒカゲは思う事がある。
「それでねぇ、お頭さんがぁ──」
「何故、笑う?」
「え?」
「何が可笑しいんだ?」
今まで沈黙を保っていたヒカゲが初めて話しに割り込んで来たのだ。アカツキはどこか嬉しそうな表情をしている。
「笑いかければ自然と笑顔が返ってくるからっ」
「え?」
「君は今どこにいるの?」
「何を……言って」
アカツキの言いたい事が掴めないヒカゲ。東の空か白み始め、暁の空の下に小さな影が二つ並ぶ。
「君は今、ここにはいない」
「だから……どういう」
「君の心は鎖に繋がれている」
「……」
「心までもが閉ざされる、この理不尽な世界。ねぇ、君は今、楽しい?」
「……楽しい?」
そんな事は考えなくてもとうに答えは出ていた。
「楽しくなんか……ないっ」
「目を覚まして、ヒカゲ! 私は君を助けてあげられる程、強くはないけど」
アカツキはヒカゲの心へと優しく語りかける。
「君の心を照らせる光になりたいなっ」
暁の光が薄っすらと二人を照らす。それは、ヒカゲにとって大切なものへと変わりつつあった。
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