5

「戻っていたのか」


「はい、主」


 少年が主と呼ぶ男性、右手は戦乱で無くしたという。いつも崩れる事のない不敵な笑みを浮かべ選別せんべつを眺める。


「さぁ、行くぞ。お前はこんなところにいるべに奴隷ではない」


「はい」


 重く錆びた枷を引きずりながら主についていく。外へ出て中庭を歩む。ここへきて五年、見慣れた風景だ。中庭には小さな屋根のついた長椅子があり、休憩場となっている。この中庭は戦闘奴隷の訓練場と言って良い程、戦闘奴隷以外は使わない。かと言って、戦闘奴隷も人数が少なく、使う者はあまりいない。


「明日はコロシアムだ。良い試合を期待しているぞ」


「はい」


 ヒカゲを中庭に残し、主は去っていく。

 コロシアムは、命のやり取り。負けたら死、勝ったら生、それが大きな鉄則の試合だ。

 中庭は穏やかで地に生える草は風に揺られ、近くに一本、大きな木があり、青葉は生い茂っている。少年は小さな長椅子へと腰を下ろし休む。瞼を閉じると今日の惨劇が脳裏に浮かぶ。自分が生きる為に、他人を犠牲にしてのし上がった自分の姿がはっきりと見える。そんなことを考えていると腕や肩に何かが乗ったのが分かる。

 ゆっくりと瞼を開けると、そこに居たのは綺麗な音色を奏でる鳥達だった。


「鳥が好きなの?」


 不意に背後から声をかけられ、瞬時に跳び上がり、後ろへ構える。そこに居たのは同じぐらいの背丈の少女だった。長い黒髪は右目を隠しており、左瞳は少しくすんだ紫根しこんの双眸をしている。


「君、名前は?」


「……緋影ヒカゲ


 おもむろに話しかけてくる少女に先程、主と話していた時とは全く違う話し方だ。無愛想でぶっきら棒に言い放つ少年、ヒカゲ。


「私はアカツキ! 戦闘奴隷なの……」


 不安そうに俯く少女、アカツキ。二人は戦闘奴隷として死ぬまで殺しをする。時期にアカツキにも感情が無くなるのだろうか。


 ──拒否権などなく、生きるのを諦めたら死が待っているだけの世界を歩む事になるのだ

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