4

 ──鉄の匂い


 五歳になって間もない頃、小さな集落で過ごしていた。親の顔などあまり覚えていない。

 ただ、残っているのは耳障りな集落の者達の悲嘆の叫び声と鼻が曲がる程の濃い血の匂い。何者かに集落を襲われたのだ。

 この家にも襲撃者達が来るのはそう、時間はかからなかった。家の戸を乱暴にこじ開けられ、父親は母親と少年を守る為に戦ったがすぐに殺された。母親も父親を追う様に抵抗し殺された。

 追い詰められた少年は何も出来ず只々、親を殺されるところを見ていた。

 そして、一人の男が現れ、少年に枷かせをつけ、告げた。


「今日からお前に自由はない。この枷は一生涯、はずれない」


 この日、少年の運命は天地一変した。未来永劫、自由は訪れないのだから。


 手には生暖かく血肉を裂いだ後の感触がまだ残っている。また、人を殺めたのだ。

 村一つ落とすのに、そう時間はかからなかった。一瞬にして炎に覆い尽くされた村。辺りには悲嘆の叫びとすすり泣く声が響いていた。

 償いきれない程の罪、少年の瞳は光を失い闇を見ている。この呪縛は、誰にも解くことのできない鎖で固く閉ざされている。身分も自由も感情さえもが、その鎖に閉ざされてしまっているのだ。少年の心には何もない、空に等しい。罪のない人を殺めてしまっても全くの無関心なほどに。


 奴隷となる者は二つの部類に分けられる。一つは傷がなく病に侵されない様な丈夫で若い者、人身売買用の奴隷だ。もう一つは名武家や人並外れた力を持つ者、戦闘用の奴隷だ。この部類に満たない老人や貧弱ひんじゃく、病弱な者達は直ぐに焼かれ存在を皆無にされる。それがここの鉄則だ。

 今まで生きてきたこの世から存在を跡形もなく消される。この光景をここにきて何度も見てきた。小さな村や街を襲っては人を攫い、金品を奪い、用のない者は殺す。その繰り返しだ。

 戦闘奴隷は、滅多に現れない。この数年、戦闘奴隷の扱いが激しくなり始めているからだ。戦闘奴隷を猛獣又は戦闘奴隷同士で殺し合いをさせる『円形闘技場コロシアム』などと見物にされるという形で制定されたからだ。強い者だけを選抜し、より良い殺し合いを求める事から戦闘奴隷は高値で取引され、死ぬまで殺しをさせられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る