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 彼の行く先、それはどこなのか。彼にも分からない。ただ、あの場所から逃げてきたのだ。当てはある。だが、物心ついた頃から一つの場所しか知らないため、地理に関して、全くと言っていいほどの無知なのだ。あの場所から逃げてきて、一週間。森の中を彷徨さまようだけである。

 突如、よどんだ空気が少年を包む。少年は、悟った。ここには来てはいけないと。辺りを見渡すと、先ほどの砂利道とは外れた木々の中だと分かる。考え事をしていた所為せいか、道を外れてしまったのだ。元の道へと戻る為、引き返そうとするが、


「道がっ……」


 来た道を戻ろうと振り向くが、砂利道は消え、背の高い木々が少年を覆っていた。先ほどまで陽が出ていたはずだが、空を見上げると赤い月が唯一の光と言って良いほど暗く、おぞましい夜空。思わず足がすくんでしまうほど、張り詰めた空気。


「──人間」


「っ!?」


 木々の向こうから聞こえる声。それは、鋭く、威圧をかけてくる。二つの鋭い淡緑色の瞳が、少年を睨みつける。少年は空かさず、じょうひょうを手に握り、戦闘態勢をとる。


「僕に立ち向かうのか。人間」


 その声は、先ほどとは比べ物にならないほどの威圧をかける。だが、その威圧はすぐに『殺す』という殺気へと変わる。一歩ずつ、近づいてくるのが分かるが、殺気は増す一方である。眼前に姿を現した時には、足が竦んでただ、少年の三倍ほどある大きな獣に目が離せなくなっていた。

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