第37話 ゆめみたい

「白バトさま。この流星群が、あたしのせいってどういうこと?」


 こうゆうの壮大そうだいっていうのかな。とてつもなくすごくて宇宙的なことが、なんであたしのせいなの。ひょっとして、あたし魔法つかいだったとか? それとも、エスパー?


「そなたは、呼び水だったのじゃ」


「よびみずってなに?」


 なんだその地味な言葉。がっかりなんだけど。


「面倒じゃの。はよう大人になれ。簡単にいえば、きっかけじゃ。そなたの存在が、この島へ落ちてくる星のかけらの意味をかえたのだ」


「ますます、わかんないんだけど」


「どういうことだよ。オレらにも教えてくれよ、白バトさま」


 ゲンがサブ兄ちゃんを支え、白バトさまへよってきた。


「ええい、そなたまで。今そんな悠長ゆうちょうなことを話している暇はない。はよう池へ入るのじゃ」


 そうだった。池がひかる時に入らないと。あたしのつえは崖の上においてきたから、はいはいしながら進む。

 流星群の落下がぴたりとやんだ。ゲンとサブ兄ちゃんが先に池へ入った。あたしも足からそっと入る。はれた左足に、冷たい水がここちいい。


 あたしたち三人が首元までつかる深さへ進むと、頭上から満月の光は真っすぐおりてきた。水面に黄色い満月が落っこちたみたい。夜空にうかぶ満月と池にうつる満月を光の柱がつないでる。

 その光の柱に反応して、池の中の星のかけらもひかり出した。白バトさまがいったように、ドバーっとひかっている。あたしたちの輪郭りんかくが、ぼやけるくらい強い光。まぶしくて目をとじたら、まぶたの裏も明るい。


 その裏側にいろんな映像がうかんできた。

 島の学校で授業をうけている子どもたち。あたしが知ってる、ボロボロの校舎じゃない。廃村になる前の風景?


 漁船に乗って、あみを引いてるおじさんの姿。井戸から水をくんでる女の人。その人たちをみあげてる映像だ。これをみているのは、子どもたち?。


 島の風景とはちがう映像も。

 海をさみしそうにみているおじいさんの横顔。タンスの中の着物を大事そうにみているおばあさんの後ろ姿。スーツを着て家を出ていくおじさん。


 これは、島をはなれた後の記憶? この島と関係ない記憶だ。つぎつぎかわる映像の中に、野球をやってるあたしの姿があった。これって、あたしの家族の記憶?


 まぶしい光と、くるくるかわる映像にめまいがしそう。体まで、めまいにつられて感覚がなくなってきた。自分の体が自分じゃないみたい。


 ふっと光が突然とつぜんやんだ。目をあけると、さっきまでのまぶしさがうそのような暗闇に、放り出された。目を細めると、横に立つサブ兄ちゃんとゲンの姿がみえた。二人はあたしと同じ大きさ。元の大きさにもどったのかわからない。


「よかったのお、そちたち。今年は元にもどったぞ」


 さっきの壮大な景色とは真逆な、まのびした白バトさまの声。あわてて、池のまわりを探す。

 いた! いつもの小さなかわいい姿の白バトさま。あらためて自分の体をみた。さっき首元まであった池の水は、あたしたちの足元にしかない。

 ということは、元の大きさにもどれたんだ。夢みたい。


「やった。アスのおかげだ。この大きさにもどったの。何年ぶりだろう」


「ありがとう。アスがいなかったら、とっくにあきらめてたよ」


 そういうふたりにあたしは、だきついた。ふたりの体温があったかい。夢じゃない。あたしたちは、やりとげたんだ。


「こちらこそ、ありがとう!」


 あたしたちは三人でだき合い、ひとかたまりになって、水しぶきをあげながら飛びはねた。もう、足首も痛くない。何回だって飛べる。


「やめぬか。我に水がかかる」


 白バトさまの苦情を聞いて、しぶしぶ池から出た。


「さっきおっしゃっていた、星のかけらの意味がかわったというのは、どういうことですか?」


 すっかり元気になったサブ兄ちゃんが、白バトさまを腕へ乗せ質問し始めた。


「つまりの。小娘を心配する家族の強い思いが、この島へとどいた。すると、他の住民を思う気持ちも星のかけらとなってやってきたのじゃ」


「全然意味わかんねえ」


「他の住民って。この島にはもう三人しかいないよ」


「そうか、蛍か。蛍になった人々を思う気持ちがとどいたんだ」


 サブ兄ちゃんが太ももをたたいていった。


「そうじゃ。今までは元住民の島の思い出だったものが、ここにいる蛍になった住民を思う思い出も、星のかけらとなったということじゃ。わかったかの?」


 あたしとゲンは同時に首をかしげていった。


「たぶん」


「あはは、そっくりな反応だね」


 サブ兄ちゃんに笑われた。だって、ゲンとあたしはおじいちゃんと孫なんだもん。内緒だけど。そっくりなのは、あたりまえ。


「さあ、もうよいだろう。ねぐらへ帰ってひと眠りするがよい。小娘、帰るのは明日でよかろう。我もつかれたしの」


「これから、お酒飲まないでね。白バトさまも眠ってね。そして朝いちばんここにくるから待っててよ」


 白バトさまには、十分念おししとかないと。


「わかった、わかった。我も眠る。ではの」


 そういって、やぶの中へ首を前後にゆらしながら入っていった。

 あたしたちは、石段を競うように一気にかけおりた。あんなに高かった石段だったのに。体が元にもどったら、こんなに簡単におりられる。これから、ゲンもサブ兄ちゃんもできることがふえるね。


 あたしは、ちょっとだけほこらしい気持ちでふたりをみた。

 石段の下のクギでとめた葉っぱと青い石を拾いながら、ねぐらへ歩き始める。


 ふたりはもうあたしの肩に乗っていない。横を同じ目線で歩いてる。小人になった時と同じなんだけど、なんかちょっとずかしい。

 恥ずかしさをまぎらわすため、あたしはいった。


「ふたりと最後に野球したかったな」


「やろうぜ、アスが帰る前に」


「でも、バットとボールがないよ」


「ボールもってるよ。ボクは中学で野球部に入ってたんだ」


 えっ? サブ兄ちゃんが野球やってたなんてはじめて聞いた。




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