第34話 めざすは、お社

 サブ兄ちゃんの本体の三郎さんが、先生と同じような病人になったの?

 昼も夜も関係ないってことは、意識がないの? 

 あたしの体も病院でずっと寝ている。だから、スズメにならないの?


「オレ、朝からずっとかけら探してたんだ。サブ兄ちゃんは今日もきつそうだったから、そのまま寝てた。さっきねぐらに帰ったら、人間の姿のまま起きあがれない」


 ゲンスズメはつらそうに、頭の上で話し続ける。


「スズメの姿で池へ飛んでいかないと。ひかり出すまで、間に合わない。小人じゃ時間がかかるんだ。鹿に乗せてってもらいたいけど、あいつらお社にいくのいやがるし」


「わかった。あたしがふたりをつれていく」


「おいおい、小娘。そなた早く家へ帰りたかったのではないか」


「いいの。こっちの方が大事」


 ごめんね、お母さん、お父さん。もうちょっと待ってて。絶対帰るから。こまってる友だちを放ってはおけないよ。その友だちはおじいちゃんなんだから、なおさら。


「ごめん、アス」


 ゲンスズメは頭の上で、ポツリとつぶやいた。目玉をきょろっと上に向け、あたしはいった。


「いこう、ねぐらへ。あたしも、忘れ物したの思い出したんだ」


 口の両端りょうはしをにゅっとあげて、あたしは笑った。サブ兄ちゃんを元にもどしてみせる。


「まあ、好きにいたせ。我はお社で待つとしようかの。かけらがひかり出すのは、真夜中。月が頭上高くのぼる時じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」


 そういって、白バトさまはあっさり飛んでいってしまった。

 なんだ、飛べるんだ。ずっと肩に乗せててそんした。ちょっと重かったし。


 のぼってきた坂道を、今度は逆にくだっていく。ゲンスズメの後を追って、走りながら! 少し足首が痛いけど、これくらい大丈夫。 


 真夜中までにいけばいいなんて、よゆう。絶対間に合う。かがやく池へ先生をつれていけなかったけど、サブ兄ちゃんはかならずつれていく。先生も応援おうえんしてね。みんながんばれって。


 ねぐらへたどりついたら、もう日が落ちていた。ゲンも人間の姿にもどってる。かまどにあいた左の穴をのぞきこみ、声をかける。


「サブ兄ちゃん、安心して。あたしが池までつれていってあげるから」


「なんでもどってきたの、アス。すぐ帰った方がいいって、いったのに」


 いつもより低いサブ兄ちゃんの声がした。


「あたしもすぐ帰ろうとしたんだよ。でもね、紙とえんぴつ探すのに時間かかって。結局みつからなかった。かわりに葉っぱを探したの。知ってた? 文字が書ける葉っぱがあるの。それに、クギで字を書いたんだ」


「あー、多羅葉たらようか。知ってるよ。葉書は多羅葉から思いついたんだって」


 えっ、知ってたんだ。それなら最初から、サブ兄ちゃんに聞けばよかった。


「さっ、いこう」


 あたしはサブ兄ちゃんの体をそっと持ちあげ、葉書が入っていない、もうひとつのズボンのポケットに入れた。肩につかまるだけの力はもうないみたい。


「アス、これ忘れたんだろ?」


 ゲンが海水の入ったペットボトルを引きずってきた。

 このままでは、たぶん持って帰れない。あたしは、ペットボトルのふたをとってなかみを外へ出した。海水といっしょに出てきた白い砂。色とりどりのきれいな石。コンブ、桜貝。みんな宝物だけど……。


 最初にみつけた青い石をつまみ、葉っぱが入ったポケットに入れた。どうか、これだけは持って帰れますように。


 立ちあがって、ねぐらの中をみまわした。

 空がのぞく天井。ツタがからまった緑の壁。コケがはえたコンクリートの床。

 鹿さんが運んでくれたハンモック。四角いかまど。右の穴の中には、ゲンの宝物。あたしの手紙も入っている。


 もう二度とこれないだろう。夏のとっておきの思い出を、目の奥に焼きつけておく。絶対忘れないために。


 外へ出ると、うす暗くなっていた。そんな中、蛍がよってきて道を照らしてくれる。月はまだ出てない。

 ポケットには葉書が二枚と青い石。反対のポケットには、サブ兄ちゃん。肩にはゲンを乗せている。さあ、お社めざして出発!


 しばらく歩いて、お社へ続く道に出た。さっきここでまよったんだよね。ねぐらにいくかどうか。

 あの時いってれば、もっとはやくサブ兄ちゃんの異変に気づけたのに。


 ずきり……。あたしは片目を思わずつむった。


「どうしたんだ? 急にウインクして。オレだってウインクぐらい知ってるぞ」


 ゲンがあたしの顔をみていった。


「ウインクじゃないよ。ちょっと目にゴミが入ったの。小さい虫かな」


 あたしの右目をのぞきこもうとするゲン。あわててとめた。


「大丈夫だよ。もうとれたみたい」


 あたしってたましいなのに、なんで足が痛くなるのよ。食べ物はいらなくても、不死身じゃないんだ。

 文句いってもしょうがない。もうすぐ神社の石段なんだから、それをのぼったらひとまず休もう。足のために。

 ほら、石段がみえてきた。あとはのぼるだけ。お社はすぐそこ。


 でも、さっきから足の痛みとは別に、体がどこかおかしい。骨がぎしぎし音を立ててる感じ。痛くはないんだけど、なんだろこの感覚。


「おい、なんかおまえちぢんでないか? それとも、オレがでかくなってんのか」


 肩に乗せたゲンが、だんだん重たくなってきた。サブ兄ちゃんも大きくなって、ポケットから頭がはみ出してる。


「ちがう。アスが小さくなってるんだ。ゲン、肩から飛びおりろ! アスがおしつぶされる」


「そんなまさか。なんであたしが小さくなるのよ」


 そういったとたん、目の前の石段がどんどん高く、大きくなっていく。足元にあった石が、あたしの頭をこしていく。

 石段が巨大になってるんじゃない。あたしがちぢんでるんだ!





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