第33話 むりをして
ドスーン! お尻から落っこちた。
いたた。お尻をさすりながら立ち上がったら、左の足首が痛い。スライディングして、ひねった時の痛みに似ていた。
あーあ、ひねったのかな。つま先を土につけ足首をまわしてみる。うん、そんなにひどくないと思う。はれてもないし。がまんできる。
木をみあげたら、さっきのヘビがニョロニョロとウロからはい出てきた。長くて太いヘビ。ひょっとして、お話しできたりするのかな……。
星のかけらを知ってるか、聞いてみる? ヘビは幹をはって、だんだん下へおりてくる。
やっぱりダメ。気持ち悪い、というかこわい!
あたしはかけらをにぎりしめ、一目散ににげだした。
池のふちまで走って、森をふり返る。ヘビはついてこない。大きく息をはき出したら、肩から力がぬけた。
でも待って。ヘビって鳥とか食べるよね。ヘビのハトを丸のみしている画像が、ぱっと頭の中にうかんだ。
ヘビは一匹じゃない。きっと、白バトさまがのびているやぶの中にもいるはず。あんなだらしなく眠りこけてたら、ヘビのエサにされちゃうよ。
あたしは、やぶへ向かって走った。
白バトさまはまだ木の根元で、ガーガーいびきをかいて寝ていた。よかった。よかったけど、なんか腹が立つな。
あたしは、人差し指で、白バトさまの頭をちょんちょんつっついてみた。
「うーん、もうちょっと寝かせてくれい」
「ねえ。こんなところで寝てたら、ヘビに食べられちゃうよ」
「あー? この島で、神使の我に危害をくわえるものなぞおらん」
「たぶん、もう三時間たったんだけど」
あたしは、かたむいた太陽をみていった。
「せっかく、いい夢をみていたのだ。もうちょっと夢の世界へ――」
あたしは、ポカンと白バトさまの頭をはたいた。
「いいかげんにして。いい夢みられるんなら、もう気分いいでしょ!」
あたしのどなり声で、赤い目はぱっとひらく。
「こらえ性のない小娘だのお。いたしかたない。起きるとするか」
白バトさまにいわれたくない。お酒がまんできずに、二日酔いのくせに。
ようやく、立ちあがった白バトさまは全身の毛をふくらませた。ぶるっと一度身ぶるいすると、パタパタとはばたいてあたしの肩に乗った。
「さあ、ゆくぞ。早くせねば日が暮れる。我は鳥目なのだ」
誰のせいでこんな時間になったのよ。もう!
やっと、やっとお社を出発できた。
ポストのある上谷へいくには、一度海までおりないといけない。
くだり坂を歩いていると、右にいけばねぐらへつづく分かれ道まできた。
どうしよう。最後にゲンとサブ兄ちゃんに会いたい。会いたいけど、もう時間がないし。昨日の夜、お別れいったからいいよね。
星のかけらも二個だけだけど、池に入れてきた。絶対元にもどれるよね。
山へ近づいていく太陽を気にしながら、みんなで遊んだ海まできた。
あっ、ペットボトルのスノードーム、ねぐらにおいてきちゃった。やっぱりさっき、ねぐらへもどればよかった。でも、魂のあたしではスノードーム、東京へ持って帰れないよね。
帰ったら、夏休みの間に絶対おじいちゃんのところへいきたい。もう反対されたって大丈夫。学校と塾の宿題は、すぐに終わらせる。ちゃんとおじいちゃんの家でも、勉強するってお母さんにいってみよう。
そして、海であのサイダー味のグミみたいな石をみつけるんだ。だって、三人で探してすごく楽しかったもん。
……最後に、もう一回サブ兄ちゃんの顔みたかったな。
あっ、おじいちゃんのところにいけば、三郎さんに会えるけど。……ちょっと会いたくないような複雑な気分。だって、かっこいいサブ兄ちゃんがおじいさんになってるの、見たくないよー。薄情とかじゃなくて、これは乙女心の問題。
グズグズとサブ兄ちゃんのことを考えながら、遊んだ浜辺から港へ歩き、上谷に続く道をのぼっていく。
やっぱり遠い。あたしの肩の上で白バトさまは、頭を前後にゆらしていた。眠いんだな。
だんだん木が多くなり、海辺よりすずしくなってきた。もうすぐ、サルのハナちゃんと会ったところだ。もうちょっといけば、キョウチクトウの咲いていた、ポストの近く。でも、またサルたちに追いかけられたら……。
「白バトさまは、サルにも尊敬されてるよね」
シンシさまといっしょなら大丈夫だろうと、確認のため聞いてみた。
「あー、サルたちはのお――」
なんか歯切れが悪いな。
「我のことなど、
ということは、白バトさまがいてもサルはおそってくるってこと?
ほんと使えないな、このハト。さっきといってることちがうじゃん。
とにかく、みつかる前にポストへハガキを入れればいいんだから。そうだ走っていこう。
地面をけろうと力を入れたら、足首にずきりと痛みがはしった。さっきひねったところが、痛み始めたんだ。
「おーい、アスー! やっとみつけた」
ゲンの声が空から聞こえてきた。あたしは空をみあげる。スズメのおじいちゃんがこっちへ飛んでくる。最後のお別れをいいに来てくれたのかな。
「大変だ。サブ兄ちゃん、まだ日がしずんでないのに人間の姿してるんだ。おまけに起きあがれないほど、弱ってる」
頭にとまったゲンスズメの言葉で、横たわり弱々しくほほえむ先生の顔とサブ兄ちゃんの顔が重なった。そして、あの言葉も思い出す。
『昼も夜も関係ないんだ。向こうの先生は病院のベッドの上でずっと寝てるんだからな』
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