第32話 みつけた、星のかけら

 池の水を両手ですくって、こぼさないように白バトさまの元まで運んでいった。

 ちょっとだけ、指のすきまからこぼれてしまった。

 うずくまる白バトさまは、差し出された手のひらに口ばしをつっこんで、グビグビ飲み始めた。あっというまに手の中の水は、なくなった。


 どうしよう、たりないのかな。もう一度水をくみにいこう。あたしが立ち上がった瞬間、白バトさまはいった。


「あー、生き返る。やはり、二日酔いには水分をとらんといかんな」


 さっきの死にそうな声がうそのよう。とっても明るい声。それに、二日酔いって……。


「昨晩、そなたが帰った後、飲みなおしていたら、ついつい深酒をしてしまった」


「病気じゃないの?」


「病気? 病気といえば病気だ。急性アルコール中毒になれば、命が危険な場合もある」


「でも、白バトさま死にそうじゃないよね」


 つばさで頭をあおいでいる白いハト。あたしの目はだんだんと細くなっていく。


「いやいや、まだ頭も痛いし、はき気もする。もうすこし寝かせてくれ」


「あたし、手紙じゃなくて葉書書いたの。だからすぐに帰りたいんだけど」


「ほうほう、葉書かなるほど。それでよかろう。配達してやる。しかし、ポストまでいかねばならない」


 思わずしゃがみ込み、赤い目をにらむ。


「えっ? ポストに入れないといけないの。聞いてないよ」


「いってなかったかの。手紙も葉書もポストに入れるものじゃ」


 そうだけど、ポストってあのサルたちがいる上谷にあるんだよ。ここからけっこう遠いし。


「あたしの肩に乗ってけば、つらくないでしょ。ねっ、そうしようよ」


「ばかもん、そなたの肩に乗ってゆれたら、よけいはき気がするわ」


 なんで、逆ギレされないといけないの。キレたいのはこっちなのに……。


「まーまー、親御おやごは心配しているであろうが、そなたはここで元気いっぱいなのだから。体も大丈夫じゃ。神使である我を信じよ」


 信じた結果がこれなんですけど。

 ベッドから起きあがって、家族に早く安心してもらいたいのに、このハトは……。


「じゃあ、どれぐらい待てばいい?」


 あたしは頭の上の太陽をみながら、白バトさまにいった。


「そうじゃなあ、すずしくなる夕暮れ時まで……」


「そんなに待てない!」


「わかった。わかった。あと三時間ぐらいは、寝かせてくれ」


 白バトさまの声は急に弱々しくなっていく。そのままコテンと横になってガーガーいびきをかき始めた。

 その姿は、日曜日のお父さんそっくりだった。


 いくらあせっても、しょうがない。白バトさまは、てこでも動きそうにない。あと三時間待てば、帰れるんだから。

 でも、三時間ここでボーっとするのは、時間のむだ。ダラダラしているより、何ができるか考えよう。


 そうだ、星のかけらを探そう。池がかがやく時、ここにいられない。けど、少しでもゲンやサブ兄ちゃんの体が元の大きさにもどれるように。


 星のかけらをポケットから出し、池に入れる。まだまだ池の底いっぱいになっていない。

 先生みていて。あたし、がんばるよ。


 星のかけらはこの池めざして落ちてくるんだから、まわりに落ちている可能性大。

 あたしは池からはなれ、鳥居をくぐり、長い石段をみおろした。石段の両側の斜面には、草がいっぱいはえている。ここへ落ちたら、草にかくれてみえないよね。


 下から順番に捜索そうさくだ。石段を一気にかけおりた。

 まず石段の両側を探したら、一つだけ落ちてた。やった。


 今度は森を探そう。白バトさまが寝ているやぶとは、池をはさんで反対側の森の中へ入っていった。


 ここは、大きな木がたくさんはえている。あたしが腕をまわしてもとどかない太いみきもある。とりあえず、枝を拾う。地面につもったかれ葉や草をはらい、かけらを探した。

 地面から根っこが飛び出して、デコボコしてるところはとくに丁寧に。こんなところにはさまってたら、スズメはわからないよね。


 よーく探したけど、ひとつも落ちていない。つかれて大きな木の幹に手をついたら、木肌きはだがザラザラしていた。

 そういえば、あたし木のぼりってしたことない。この木ならのぼれるかな。幹をたどって、上へ上へとみあげていく。その途中、穴があいてるところがあった。


 ああいうの、ウロっていうんだよね。テレビでみた。鳥が巣にしたり、リスが食べものかくしてたり。

 ひょっとして、リスがあの中にかけらをかくしてたりして。


 あのウロまでのぼってみよう。そう高い場所でもないし。のぼり棒の要領ようりょうでいいよね。

 幹のゴツゴツしたところに足をかけ、腕をまわしてしがみつく。ゆっくりのぼっていって、身長の二倍ぐらいの高さまできた。

 ウロの中をのぞく。


 あった! よーし、慎重に右手をのばす。ひんやり冷たくて、かたい感触かんしょく。中のかけらをつかんだ。

 つかんだ瞬間あたしのこぶしのすぐ横で、三角の顔がにゅっと出てきた。黒い顔して舌をちょろちょろ出してる。


「ギャー、ヘビ!!」

 ってさけんだひょうしに、あたしの体はずるずると下へ落ちていった。

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