第28話 ふしぎな池

「この星のかけら、池に入れるね」


 おしりをパンパンとはたく。鳥居の向こうの池をチラリとみた。


「白バトさま、池までついて来てくれる?」


 草がおいしげる場所は、月明かりもあまりとどかなくてうす暗い。


「ホッホッ、暗闇くらやみがこわいか。そなたもかわいいところがあるではないか。では、そこに落ちているかれ枝をひろうがよい」


 なんか、子どもあつかいされて、えらそうに命令された。いうんじゃなかった。

 むくれて、落ちていた枝を拾うと、けっこう太くて重い。

 あたしの肩に、白バトさまの重みも加わる。


「それを、まっすぐ天に向けて持つのじゃ。そうそう。みておれ」


 そういうと、白い翼をばさりと広げ枝に風を送る。いっしょに、あたしのかみも風になびいた。

 すると、枝の先から炎がふきあがり、だいだい色にあたりは明るくなった。


「すごーい。なにこれ。魔法だ」


「だから、魔法ではなくご加護じゃ。八幡様は勇猛ゆうもう武運ぶうんの神だからの。火をあやつるぐらいわけもない」


 ご加護の赤々ともえる枝をかかげ、あたしは池へ歩いていく。

 池の底で白い石が、ぼんやりとひかっていた。


「もう、かけらがひかってるよ! 日にちまちがえた?」


 あたしがあせっていうと、白バトさまは鼻息あらくいう。


「これしきのかがやきではない。八幡様をなめておるのか、そなた。明日はもっとこうドバーっと光りかがやくのだ!」


 ドバーって……まだ酔ってるな。このハト。

 あたしは袋をあけ、白い石を池にどんどん入れていった。石のならす水音が、耳にここちいい。ポイントカードのスタンプを、ポンポンおしていくのに似てる。


「これだけあれば明日、元の大きさにもどれるよね」


 池にしずんだかけらをみて、あたしの鼻は少し高くなる。


「そうじゃのう、昔は人々の思い出が流星群りゅうせいぐんを形成し、この池へふりそそいだのじゃ。池の底が、うめつくされるほどであったが」


 あわてて底をのぞくと、白バトさまがいうような、うめつくされる状態ではなかった。白いかけらは、だいたい底の三分の二ぐらいしかない。


「これだけじゃ、ダメ? どうしよう――」


 今日は一個しかみつけられなかった。もっとがんばればよかった。でも、まだ明日があるし、明日探せば……。

 しぼんだ気持ちをなんとかふくらませようとした時、空に一筋の光があらわれた。


「ほっほう。今日も星のかけらがふってくるのお。こっちへ落ちるぞよ」


 その言葉通り、どんどんこちらへ近づいてくる。接近する流星にぶつかりそうで、思わず頭をかかえうずくまった。ぽちゃんと音がして、池へ落ちた。波紋はもんが広がり、水面の光が強くなる。


 水の輪っかがなくなると、テレビ画面みたいな映像が水面にうつっていた。これも、八幡様のご加護なわけ?


 白い空間。たぶん病院だ。そこにお母さんがいる。お母さんはいつも怒っている顔をくしゃくしゃにして、今にも泣きそうな顔をしていた。お父さんの姿はない。でも映像にうつりこんでる大きな手は、お父さんの手。


 どうしたの。何がそんなに悲しいの。ふたりのみつめる先にベッドがある。そこに寝ていたのは、あたしだった。


 えっ? なんでそんなとこで寝てるの。あたしはここにいるのに。これは、未来の映像? だってあたし入院なんかしたことない。


「おーおー、そなたの本体の映像じゃな」


 混乱こんらんした頭に、のんきな白バトさまの声がつきささる。


「本体ってなに? どういうことなの。ここにいる、あたしってなんなの。元の時間にもどしてくれるっていったよね!」


 白バトさまの羽をつかみがくがくとゆすぶった。


「だからいったではないか、そなたの体の時間がとまって、何の変化もないと」


「はっ? 意味わかんない。もっとちゃんと説明して!」


「だから、今ここにいるそなたは、体をぬけ出した魂なのだ。体の方は、ああやって意識がなく病院で寝ているのであろう。安心せい。魂がもどったら自然と起きる」


「えーー! そんなの聞いてない」


「聞いてないって。そなた、腹が減らんだろう。この島に来て何も食べていないはずじゃ。生身の体なら、とっくにえておるわ」


 そうだ、あたしここに来てなんにも食べてない。水も飲んでない。楽しすぎて、ちっとも気がつかなかった。

 どうしよう、お母さんたちすっごく心配してる。早く帰らないと。


 水面にうつった画像は、光がだんだん弱まりあっけなく消えた。水面はさっきと同じように、ぼんやりひかっている。


めずらしいな。島民の思い出ではなく、現在この島にいるものへの思いが、星のかけらになるとは」


「そんなこと、どうでもいい! あたしを早くもどして。ねえ、早く」


「わかった、わかった。では、手紙を書くがよい」


「はっ? 帰るのに手紙書かないといけないの?」


「そうじゃ。ここにも手紙とともにやってきたであろう。手紙を書いてポストに入れれば、そこへ配達してやる。切手はおまけしてやろう」


 この緑におおわれた廃村で、便せんとえんぴつってどこにあるんだろう……。










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