第22話 にげろ!
「遊んでくれたら、お礼に星のかけらの場所を教えてやるよ。探してんだろ?」
「どこにあるのか、知ってるの?」
なんて、いい幽霊さんだ。ゲンとは仲悪かったみたいだけど、孫のあたしがその分遊ぶからゆるして。
「ああ、昨日の夜。俺の頭をかすめるみたいに落ちてきた。ほんと
えっと、いいかたは乱暴だけどかけらの場所は知ってるわけで。ちょっと遊ぶだけで手に入るんだから、ラッキー。
「じゃあ、遊んだらその場所教えてね。でも、何して遊ぶ?」
姿がみえない幽霊と、どうやって遊ぶんだろ。ここにテレビゲームとかないし。
「かくれんぼしようぜ。俺が鬼な。百数えるから、その間ににげろ」
姿のない鬼からにげるの? まっ、いっか。なんとかなるだろう。
あたしは静かにやぶから出て、あたりをみまわす。石垣の上に松の木がうわってる。石垣をのぼったら、地面にパラパラと松ぼっくりが落ちていた。
すごい。ここの松ぼっくり大きい。うれしくなって、ひとつ拾いポケットに入れた。
顔をあげると、今にもくずれそうな家が建っていた。この中に入ってみよう。
中はうす暗く、ボロボロ。壁へ
子どもの力でも簡単に板がはずれた。クギとか打ってないみたい。
その板を、障子に立てかけながら、はっとひらめく。
これをトラップにして、あたしは床下にかくれたらいいんじゃない? ナイスアイデア。さっそく、それらしく板を立てかけ、あたしはあいた穴から床下へおりた。
床下はせまいけど、よつんばいになったら十分かくれられる。ひざと手をついたら、しめった土の冷たさに汗がひく。外は、あんなに暑いのに、ここはすずしい。いいところをみつけた。
ハイハイしながら進み、うす暗い中、体育座りで鬼を待つ。地面につけたお尻が、だんだんしめってくる。
とっくに百は数え終えてるだろう。もう少ししたら、さっきの場所にもどってみよう。だって、こんなところ絶対みつけられないし。
勝利を確信し、自然と顔がにやついた。
体育座りをして、何もしないで待つのは
頭の中で今日これからの予定を、組み立てよう。試験の前の勉強計画とかたてるの、めんどくさいだけだったけど、今はちがう。
ええっと、夕方までにかけらをみつけて。ひょっとして、ひとつだけじゃなくて、網元幽霊さん他にもかけらの場所知ってるかも。時間のかぎり探そうっと。なんてったって、明日はゲンたちが元の大きさにもどれる満月の日なんだから。
で、ねぐらに帰ってサブ兄ちゃんと合流する。それから、学校にいる先生へ会いにいくと。
先生なんの用事だろう。あたしだけじゃなくて、三人に用事だよね。
そんなことを考えていたら、遠くで足音がする。鬼は、ここにねらいを定めたな。ごくんとつばを飲み込み、息をひそめた。
ぎし、ぎし、ぎし。床板をふむ音がする。中に入ったんだ。
ガタン。板をよける音。舌打ちが聞こえてきた。
シッシッシ。ひっかかった、ひっかかった。息を殺してよろこぶあたし。その上を、足音が通りすぎていく。
んっまって、足音? 幽霊って足がないはずじゃ……。
何かが、あたしの上で動きまわってる。……何が?
トン! 軽く空気をふるわす音。土に何かが着地した。ジャリ、ジャリ。土をふみしめる音がゆっくり、ゆっくり近づいてくる。
網元幽霊は姿がみえないっていった。でも、実態がないとはいってない。つまり
ここはすずしいはずなのに、おでこにびっしりと汗がうかぶ。
きっと、透明人間なんだよ。鬼は透明人間……ほんとの鬼……だったらどうしよう。
ぶんぶんと頭を強くふる。恐怖をふりはらうように。
体育座りからよつんばいになり、近づいてくる音からソロリソロリとにげる。
土につけた指先は、冷たさでふるえがとまらない。そのふるえは全身に広がっていく。
あたしの背中から、甲高い声が聞こえてきた。
「みーつけた」
その声といっしょに、足音がかけ出した。うそでしょ。ハイハイにしては早すぎる。こんなせまいところで走れるわけない。
やだー、何に追いかけられてるのよ。自分で幽霊っていったくせに!
にげるあたしの背中にどさりと重みと体温が加わり、目の前が暗くなる。目かくしされたんだ。
「つかまえたぞ!」
「ギャー、助けて!」
悲鳴とともに、あたしは立ちあがった。床板で頭をしこたまぶつけたけど、暗闇から一転、日の光に
どうしよう! こわい!
「おい! エテ公。アスに何しやがる。はなれろ!」
ゲンスズメの声が、耳に流れこんできた。
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