第15話 そうとう、うれしい

 ちょうど百円玉ぐらいの大きさで、ピカピカしていて、ペットボトルのふたみたいな形。丸い部分にいろんな絵や文字がかいてある。でも、ふちはギザギザしていてちょっと手にチクチクする。


「これ、なんなの?」


 ギザギザ部分がかんむりにみえなくもないけど、小さすぎる。


「ジュースやビールびんのふただ。ガラスびんのせんになってて、栓ぬきでぬくんだよ」


 ゲンスズメが得意そうに教えてくれたけど、さっぱりわからなかった。


「これだけあったら、カラスがかくしている星のかけら全部と交換できる。日が暮れる前にいこう」


 サブスズメは興奮気味こうふんぎみにいって、さっそく飛び立とうとしている。

 あたしは、王冠が入った麻の袋を持ち、カラスの巣へ飛んでいく二羽の後を追ったのだ。


                 *


 カラスの真っ黒な目が飛び出そうなほど、みひらかれている。そして、口ばしからはよだれがたれそうだ。

 かしこい顔は、どこいったの。


「どこにかくし持っていたんですか、こんな宝物」


 あたしが、百円出した時より興奮してカラスはいった。王冠はその名前に負けないくらい、カラスに魅力的みりょくてきだったみたい。


「いろんな絵柄えがらがついていて、なおかつ光沢こうたくがある。このゆがみもたまりませんね。一つとして同じものがない。よろしい。白い石と交換しましょう」


 やった! なんか納得できないけど、カラスが喜んで交換してくれるんだから、よしとしよう。


「この王冠一つと、石一つの交換だ。君たちがかくしている石をここに全部持ってきてくれ。数えるから」


 サブスズメが念おしするように、カラスにいう。また勝手なルールで、王冠三つと石一つとかいわれたらたまったものじゃない。


「疑り深いですね。ここで待っていてください」


 一声カーと鳴き、カラスは奥さんとかくし場所へ飛んでいく。口ばしに二、三個ずつくわえてもどってきた。

 何回も往復して、せっせと石を運んだ。

 あたしたちの前に白い石はどんどん集まり、小山ができていく。いったい何個あるんだろう。


「さあ、これで全部ですよ」


 カラスがゼーゼーと息をつく。その瞬間、いっせいにみんながあたしをみる。


 ですよね。それではあたしが代表して、責任を持って数えましょう。

 注目を一心いっしんに集めつつ、右手は石の山、左は王冠の山から一つずつつまむ。そして、数を数えていった。


「い~ち、に~い、さあん、し~い、ごお……なあな」


 あまりの緊迫きんぱくした空気にのみこまれ、まちがえてしまった。 

 ツーアウト満塁まんるいのバッターボックスより緊張する。中学生なのに、恥ずかしい! って思った瞬間、カラスにつっこまれる。


「五の次は六でしょう。あなたそれでも、人間の子どもですか!」


 このカラス、数がわかるの? かけ算ぐらい、簡単にしそうだな……。

 カラスに怒られ、へこんだ気持ちのまま、数え続ける。


「じゅうなな、じゅうはち、じゅうくう、にじゅう、にじゅういち。終わり!」


 王冠はまだまだあるけど、石は二十一個でラストだった。


「王冠はあまってるぞ。本当にこれで全部だな」

 ゲンスズメが、一応確認。


「しつこいですね。私たちにとってそんな石、何の価値もない。それで全部ですよ」


 価値がないなら、なんでかくしてたんだよ。とゲンスズメのボヤキを無視して、カラスと奥さんは、さっさと王冠をくわえて飛び立っていった。また何往復もして、かくし場所にかくしにいくのかな。ご苦労さまです。


 あたしは二十一個の星のかけらを全部、両手のひらに乗せてみた。ずっしりと重い。そして、この重さと同じぐらい、うれしい!


「やった、やった大漁だ! 今日はお祭りだ!」


 ゲンスズメとサブスズメも、あたしのまわりをグルグル飛びまわって、喜んでいる。

 みんなで知恵を出し合って、やっと手に入れた星のかけら。これだけあれば、元の姿にもどれる?

 あたし、この二羽に助けてもらった恩返し、少しはできたかな。


 まだ運んでいるカラスの冷たい視線をあびながら、ひとしきり石のまわりではしゃぎまわった。

 楽しくて、ほこらしくて、つかれて、草の上にごろんと寝転んで、うでをつきあげる。そのうではオレンジ色にかがやいていた。

 きれいだなあって思ったら、すぐにオレンジ色はいろあせて、くすんだ色にかわっていく。

 太陽がしずんだんだ。ふっと横を向くと、スズメじゃないゲンとサブ兄ちゃんが立っていた。


「これだけあれば、先生も一つぐらい、うけとってくれるんじゃないか?」

 ゲンはその小さな体には大きすぎる石を、かかえながらいった。


「そうだね。こんなにあるんだから。今から学校へいってみようか」


 先生に学校? この世界に学校あるの? 宿題はないっていったのに。

 あたしのハテナがうかんだ顔をみて、サブ兄ちゃんは教えてくれた。


「ここには昔、学校があったんだ。今でも先生は一人だけ学校に残っている」


「大人もいるんだね」

 すこし安心した声であたしはいった。


「先生はなんでも知ってる物知りなんだぞ。でも、今は体が弱ってて――」

 自慢するゲンの声が、夕日みたいにしずんでいく。


「先生は、昼間より夜の方が元気なんだ。アスをみたらびっくりするよ」

 サブ兄ちゃんは、ことさら明るい声を出していった。


「うん、あたしも会ってみたい」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る