第14話 せこいよ

「ふっふっふ。なるほど、現金をちらつかせ、私を買収ばいしゅうしようというのですね」


 このカラス、これがお金ってわかるんだ。ゲンたちはわからなかったのに。


「よろしい。そこで待っていてください」


 やった。交換してくれる気になったんだ。

 カラスは、黒い羽根を大きく広げ、羽ばたかせた瞬間、ピタリとその動きをとめた。


「おっと、スズメくんたち後をつけてこないでくださいよ。私たちの秘密のかくし場所なんですからね」


 なんて、疑り深い。チラリとサブスズメをみると小さく舌打ちしていた。あれっ、ひょっとしてこっそり後をつけていこうとしてた? 


 カラスは捨てゼリフをはき、何度も羽ばたかせた。あたりのかれ草をまきあげながら。風にあおられた草があたしのほほを打つ。

 絶対わざとだ。こばかに一声カーと鳴いて、飛んでいった。


 しばらくしてもどって来たカラスの口ばしから、ポロリと星のかけらが一つ、こぼれ落ちた。


「さあ、そのお金をよこしなさい」


「えっ、一個だけ? 石はもっとあるんでしょう」

 あたしは百円玉をにぎりしめ、不満を声に出した。すると、フンとカラスは鼻息を荒くはき出す。


「交換するものが一つなのだから、石は一つ。当然でしょう」


「えー、これ百円なんだよ。せめて三つぐらいちょうだいよ」


「人間にとってそれは価値があるかもしれないが、カラスにはなんの価値もない。石をもっとほしかったら、他に交換するものを持ってきなさい」


 そういって、勝ちほこったように口ばしを空へむける。


「アス、すまないけどいうこと聞いて、お金をわたして。とりあえず一つは手に入ったんだから」

 納得できないけど、しぶしぶサブスズメの言葉にしたがい、カラスへむかって手のひらをつきだした。


 高らかなカラスの鳴き声を背に、ねぐらまであたしたちはとぼとぼ帰って来た。暑い外とはちがい、天井がぬけててもねぐらの中はひんやりとしてすずしい。

 あたしはハンモックの中に入って、ゆらゆらゆれながらいった。


「カラスはひかるものが好きだから、ああいう丸くてピカピカしたものなら交換してくれるよ」


「漂流ゴミから拾ってくるか?」


「あそこにあるのは、大きいものばかりだ。あんな小さいものは落ちてない」


「じゃあ、どうする?」

 ゲンスズメが、ちょっとイラっとした声で、サブスズメにいった。


「あのカラスたちは、石をたくさんかくしてる。だからひかるものもたくさん集めないといけない。はたして、この島で集められるかどうか」


 サブスズメの声がだんだんと小さくなっていく。あたしは、はっとひらめいた。


「そうだ、あの海で拾ったきれいな石は?」


「そうだよ、あの石キラキラしててきれいだったぜ」

 ゲンスズメは同意してくれたけど、サブスズメは首をふる。


「たぶんだけど、アスがわたしたお金より小さいものとは、交換しないんじゃないかな」


 あー、いいそう。随分ずいぶんとみくびられたものですね。とかなんとか。


「じゃあ、アスがもってたあのお金と同じぐらいか、それより大きなもので、なおかつたくさんあるものってなんだよ」


 ゲンスズメが、イライラと羽をばたつかせていった。


「ガラス窓をわってみようか。でもガラスをわるの危ないしなあ」


 サブスズメが、ちらりとあたしをみていう。あたしに危ないことさせられないって、思ったんだよね。そのやさしさ、うれしい。うれしいけど、キラキラした光るものみつけたい。


「ガラスびんは?」

 小さなガラスびんをわることは危なくないと思い、あたしはいった。


「それだ! ガラスびんっていえば王冠おうかんじゃないか」

 ゲンスズメが飛びあがっていった。


 はっ? びんと、王様がかぶるかんむりと、なんの関係があるんだろう。


「王冠か! そうだよ。王冠ならたくさんある」


 サブスズメまで喜んでるけど、王冠なんて宝物だよ。そんないっぱいあるわけないのに。二羽はどうしちゃったの。


「こんなところに、王冠なんかあるわけないよ」

 あたしが疑問ぎもんを口にすると、


「それがあるんだな。オレいっぱい持ってるんだ」

 ゲンスズメは自慢げに、胸をそらす。


「えっ、王冠いっぱい持ってるって。ゲン、この世界の王様だったの?」


「なにいってんだ、おまえ。それより、かまどの中に入ってくれ。そこにあるんだ」


 かまどって、たしかごはんたいたりするところだよね。

 ねぐらの入り口の近くに、四角いセメントの箱みたいなものがある。上には鉄の板がかぶせてあり、横に二つ穴があいている。そこへ二羽は飛んでいった。


 夜、右の穴にゲン、左の穴にサブ兄ちゃんが入ってねむるのだった。これが、かまどなの? こんなんで、どうやってごはんたくんだろう。


「アス、この中に入って、麻の袋をとってくれ」


 そうゲンスズメにいわれ、あたしは腹ばいになって左の穴へ頭をつっこんだ。

 中のセメントは真っ黒。布の切れはしやら、丸くて絵のかいてある厚紙やら、いろんなものが入っていた。その一番奥にふくろがみえた。

 手をのばし引きよせると、じゃらっと音がする。何が入ってるんだろう。本当に王冠だったりして。


 袋をかかえ、ずりずりと後ずさりして穴から出て、二羽にみせた。


「これこれ。袋あけて王冠を出してくれよ」

 ゲンスズメの言葉にしたがい、袋の口のひもをほどく。そして、袋をひっくり返した。


 じゃらじゃらっとにぎやかな音をたてながら、丸いものがいっぱい袋から出てきた。


 なにこれ?

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