第13話 ずるいカラス

「だから、オレたちがみつけた白い石を、おまえらがくわえて飛んでくのを何回もみてるんだって」


「さあ、なんのことだかわかりませんねえ。気のせいではありませんか?」


 ゲンスズメが、カラスの巣からはなれたところの枝にとまって、巣の中のカラスへ話しかけていた。

 木の上につくられた巣の様子は、下からみえない。でも、ゲンスズメをばかにしたカラスの冷たい声だけは、下にいてもよく聞こえる。

 丁寧な言葉づかいで、しらを切るカラス。はら立つなー。こういう態度、なんていうんだっけ。

 そうだ、慇懃無礼いんぎんぶれいっていうんだ。おじいちゃんといっしょにみた時代劇で、家老かろうがこんな感じでしゃべって、お殿様は激怒げきどしてた。


 カラスってこの世界でもかしこいんだ。うちの近所のカラスも超かしこい。

 カラスをおっぱらおうと攻撃した近所のおじさんの車だけ、フンが落とされた。そのおじさんは、駐車する場所をかえてもまた落とされた。あげくのはてには、買いかえた車にも。

 カラスはかしこいし、すごく執念深い。


「君たちにとってはただの石だろうけど、ボクたちにはとても大切な石なんだ。意地悪しないで返してくれないか」


 サブスズメも説得に参加する。


「聞き捨てなりませんねえ。まるで、私たちがわざととってるみたいじゃないですか」


「わざとだろ! オレたちが、昼間みつけた石を夜とりにくるってわかってんだろ。そんで目の前でいっつもかっさらっていきやがって。その巣の中に石をためこんでるに決まってる」


 わー性格悪い。ゲンたちをからかって遊んでるみたいだ。カラスはいたずらも大好きだし。


「ゲンやめろ。カラスに失礼だ。お願いします。全部返してください」

 サブスズメが、カラスに頭をさげているようだ。こんな時でも、礼儀正しいな、サブスズメは。怒ってもいいのに。


「ちょうどいい。子どもたちも巣立って、今は私と妻だけ。そんなにいうのなら、どうぞ巣の中をさがしてみてください」


 えっ、そんなことしたらばれちゃうじゃない。あんがいばかなのかな、カラスって。


「その言葉にウソはねえな」


 ゲンスズメはおどすような言葉をはき捨て、サブスズメといっしょに飛んでいって、巣のふちにとまった。

 よかった。これで石をまたゲットできた。ゲンスズメはいやそうだったけど、カラスも鹿さんといっしょでいい人(鳥)なんだよ。


「ない、一個もない!」


 ゲンスズメの怒った声が、木々の間をこだまする。


「どこにかくしたんだ。教えてくれ!」


 くやしさがにじむサブスズメの声。それと、カーカーって耳ざわりなカラスの鳴き声。二羽の声が山中にひびき、私の頭の中でもぶちっという音がひびいた。


「ちょっといい加減にしなさい。返してってお願いしてるんだから、素直に返しなさいよ!」


 カラスは予想もしない声が下から聞こえてきておどろいたのか、わざわざ巣からあたしのところまで飛んできた。

 大きな体にするどい口ばし。何もかも真っ黒なカラスを思いっきりにらんでやった。

 そうしたら、カラスはひるむどころかフンって鼻息も荒く、あたしのことばかにした目でにらみ返してきた。カラスの表情なんかわかんないけど、絶対この顔はみくだした顔だ。


「おやおや、スズメくんたちは鳥のプライドを捨て、人間を味方につけているのですか」


 なんてこというのこのカラス! 失礼にもほどがある。

 カラスからあたしを守ろうと、おりてきた二羽が目をむく。


「何いってやがる。オレたち人間だ!」

 ゲンスズメがくってかかるけど、カラスは素知らぬ顔。


「君たちは、もうスズメと何らかわらない。そのくせ、私たちをみくだしているのが、いちいちかんにさわるのです。ふん、ちょっとからかって、遊んでやったが。人間を味方にする君たちに、用はない」


 なーにー、こんなこといわれてだまってられない。


「あんただって、ゲンたちがスズメだからからかったんでしょう。もし、たかやとんびだったら絶対からかったりしないはず。そっちこそスズメのことみくだしてるじゃない」


 カラスの冷たい真っ黒い目が、ちょっとだけ細くなる。


「ほう、この人間の子どもは、なかなかいいたい放題いってくれますね。では、どうすれば、私が白い石をわたすと思いますか?」


 えっと、これっていい流れなのかな。それとも、悪い流れ? あたしの返答次第で、石が返ってくるかもしれないし、永久に返ってこないかもしれない。

 このいじわるカラスはどうやったら、返してくれるんだろう。

 よーく考えろあたし!


 このカラスはとっても頭がよくて、ばかにされるのが何よりきらい。人(カラス)にお願いする時ってどうすれば、失礼にならないんだろう。

 お願いを聞いてもらったら、ありがとうってお礼をいえばいいんだよ。それで対等じゃない?


 まてまて、このカラスはただでいうことを聞かないんだった……ただ?

 ただじゃなくて、お金はらったら? 

 そうだ、あたしのポケットには百円玉が入っていたんだ。


「わかった。白い石のかわりに、この百円玉をあげる。これと交換ってことでどう?」


 ぴかぴかひかる百円玉を指ではさみ、カラスの目の前につき出した。

これでどうだ。お願い。いいっていって!


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