第12話 白バトさま

 長い長い石段をのぼり、すこし傾いている石の鳥居をみあげた。息をととのえながら。鳥居があるってことは、ここは神社。

 へえ、この世界にも神様がいるんだ。八幡様はちまんさまって神様だったんだ。知らなかった。えらい魔法使いなのかと思ってた。


 鹿さんとはお別れして、あたしとスズメたちだけでここへやってきた。鳥居をくぐり、草をふみわけ奥に進むと小さな池があった。おいしげる草にかくれた、本当に小さな池。学校の中庭にあるのと同じぐらいの大きさだ。


 池の奥には山。左側はやぶっていう場所かな。木がまばらにはえている。反対の右側はやぶとちがって、木がいっぱいはえている。もこもこと巨大なブロッコリーみたいだった。


 しゃがんで池をのぞいてみる。水はすき通り、あんまり深くない。底に白い石がパラパラとしずんでいた。

 なんか少ないな。これだけだと、二人は元の大きさにもどれないんだ。これは、がんばって探さないと。


「アス、星のかけらを池に入れて」


 サブスズメにいわれ、あたしはポケットからとり出した石を、そおっと池へ入れてみた。

 ポチャンと水音がして、底にしずんでいく。別になんの変化もない。

 なんかちょっと残念。あれだけ苦労してゲットした星のかけらが、池の底へしずむとタダの石にみえる。本当にこの石は、不思議な力を持ってるのかな。


 池をのぞきこむあたしの後ろから、鳥のはばたく音が聞こえて来た。


「白バトさまだ。お社に帰って来たんだ」

 ゲンがうれしそうにいうもんだから、あたしはふりかえって、広い空にハトをさがす。そうしたら、鳥居の上に白バトさまがとまってた。


「おつとめご苦労様です。今日もつつがなくすごすことができました」

 サブスズメが、すごく丁寧な口調で、白バトさまに話しかけた。


「ふむ。人の子らよ。石は集まったか。今年はとくに少ないからのお」


「大丈夫。あたしが手伝ってるんだもん。いっぱいみつけられるよ」


 あたしがそういって、草むらの中からすっくと立ちあがったら、白バトさまは鳥居から飛びあがって、さけんだのだった。


「びっくりした! そなたまだおったのか」


 ちょっと、まだおったかって自分がむかえにくるっていったんじゃない。おどろきがおさまらないのか、白バトさまはまた鳥居にとまって、ポッポーって荒い息をついている。


「白バトさま、まさかあたしのこと忘れてたんじゃないよね」


「この神使である我が、忘れるわけなかろう」


 あたしにうたがいの目をむけられ、すーっと視線をそらせつつ、白バトさまは素知そしらぬ顔していったのだ。

 その態度、絶対忘れてたよね。あたしのこと。


「そなた、そろそろ帰るか。この豊穣ほうじょうなる世界がいかに美しいかわかったであろう」


 機嫌をとるようなやさしい声でいう。こういう声を出して、子どもによってくる大人は信用しちゃいけない。


 えーえー、十分この世界の豊かさがわかりましたよ。最初なんにもないって思ったけど、ここにはあたしが体験したことないものであふれてた。

 でも白バトさま。あたしのことみてなかったくせに、よくわかるよね。ふん。


「まだ帰りません。ゲンたちと約束したんだもん。いっしょに石を探すって」


 あたしの言葉に、きょとんと小首をかしげてクルックーと鳴いた。えらそうだけど、みた目はかわいいな。くやしいけど。


「ほう、そうか。それなら、帰りたくなったら我にいうがよい。何時でももどしてやる」


「じゃあ。ひとつお願いなんだけど、もとの時間に返してくれる? お母さん達が心配しないように、ポストへ手紙を入れた時間にもどしてよ」


「安心せよ。時間はとまっておる。そなたには今頃、何の変化もおこっておらんだろう」


 時間がとまって、何の変化もないってどういう意味? わかんないけど、とりあえず元の時間にもどれればいいや。


「では、我は一日の仕事につかれたので、ほこらにもどって休養をとる。はげめよ、人の子らよ」


 そういって、山の中へ飛んでいった。仕事につかれたって、まだお昼だよ。太陽は頭の上。なんか、仕事さぼるサラリーマンみたいなこというな、あの白バトさま。ほこらってところに帰って、こっそりビールでも飲んでそう。


「ほこらってどこにあるの?」

 白バトさまの飛んでいった方向を目でおいながら、あたしはサブスズメに聞いた。


「山の中にあるんだ。そこにおもどりになる」

 ふーん。じゃあ、帰りたくなったらそこにいけばいいってことか。覚えておこう。


「それより、これからどうする? 日が落ちるまで、また探すか?」


 ゲンスズメの提案に、サブスズメが答えた。


「この近くのカラスのところへいってみようか?」


 ゲンスズメがいやそうな顔をした、ようにみえた。


「あいつらのところいったって、いっしょだ。オレたちのいうことなんか聞くもんか」


「カラスにも言葉通じるの? 通じるなら大丈夫でしょ」

 あたしは、協力的な鹿さんのことを思い出していった。


「あいつらに言葉は通じるけど、ただでいうこと聞いてくれないんだ」


 カラスなのにお金を要求するってこと? ここでは、カラスもお金を使うのかな。

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