第5話 おちてた石

 それから、思いっきり海で遊んだ。遊び相手は、スズメが二羽なんだけど、すごく楽しかった。


 漂流ひょうりゅうゴミ――サブスズメが教えてくれた――のオレンジ色の丸いウキにしがみついて、海にうかぶ。ラッコみたいにプカプカただよっていたら、景色が全部空でびっくりした。

 ビルも、家もなんにもない。空だけが目の前に広がる。その大きな空に、綿菓子みたいな入道雲が浮かんでる。ああ、カメラでうつしたいな。そうしたら、雲の観察日記できるのに。


 服を着たまま泳いでたら、つかれてきた。海からあがって、砂浜をスズメたちといっしょにかけ回った。波打ちぎわの水を思いっきりけりあげて、スズメを攻撃こうげき。でもすばしっこい二羽にはなかなか当たらない。飛べるなんて反則だ。

 その遊びにあきて今度は、浜辺で宝物探しを始めた。そうしたら、キラキラひかる石をみつけた。


「みてーきれいな石みつけたよ」

 って二羽に教えたら、あわててこっちへ飛んできた。


「なんだ、ガラスかよ」

 手のひらにのった石をみて、ゲンスズメはがっかりしていった。


「これ、ガラスなの?」

 サイダー味のグミみたいな、青い透明な石。指でつまんで、太陽にかざす。ガラスなんて信じられない。


「割れたガラスは長い年月、波にあらわれて、角が丸くなって石みたいになるんだ。けっこう浜辺に落ちてるよ」


「すごい。こんなきれいな石、いっぱい集めたい」


「よし、集めるか。でも、白い石があったら教えろよ。オレたちは白い石を集めてるんだ」


「うん、わかった」


 白い石より断然こっちの方がきれいなのに。あたしはいいことを思いついた。


 漂流ゴミがたまっている場所へいき、キャップのついた、500ミリリットルのペットボトルを探す。何本か拾って、どぶ色の中身をすてる。ラベルもはがして海水できれいに洗う。そのうちの一本にガラスの石を入れた。


「この中にみつけた石を入れるの。そうだ小さな貝も」


「その透明な容器なに? 最近よく打ちあげられるんだけど」

 なんでも知ってるサブスズメなのに、ペットボトルを知らないの? あたしはちょっと得意な顔をして教えてあげた。


「この中にジュースとかお茶が入ってて、このまま口をつけて飲むんだよ」

 ペットボトルをかたむけ、飲むまねをする。


「へえ、水筒みたいなもんか。軽くて便利だな」

 ゲンスズメが感心していった。


 それから、三人――一人と二羽――で砂浜が太陽にじりじりと焼かれるまで、きれいなものを探した。


 青、茶色、オレンジのガラスの小石。ピンクの桜貝。あと、打ちあげられた緑色のコンブと白い砂。そこに、海水をいっぱい入れてふたをする。


 二羽は何ができるのかと、たぶんわくわくしている顔でみている。その顔の前でペットボトルをさかさまにした。

 閉じ込められたペットボトルの中、太陽の光をうけてキラキラと砂の雪が舞いおりる。即席そくせき海水スノーボールのできあがり。


 お母さんが最近こっているハーバリウムを、参考にしてみた。うん自分でも納得なっとくのでき。これ、あっちの世界へ持って帰れるかな。すごくきれいだから。


 すこしのぼった太陽に照らされ、服がかわいてベタベタしてきた。浜辺の暑さにたえられなくなって、次の遊び場へ移動することにした。


 スズメたちの案内で浜を歩いていく。すると、海に流れ込んでいる川があった。川の水は海より冷たい。足をひたしながら、上流めざしてさかのぼっていく。

 砂がだんだん小さな石になり、歩きにくい大きな石になったら、そこはもう山の中だった。


 すずしい木かげに、水音とセミの大合唱。セミとりしようと、ゴミの中から使えそうなあみを持ってきた。けれどセミとりよりも、もっと魅力的な遊びが目の前にあった。

 小さな滝がある。その滝はすべり台みたいなななめになっていて、天然のウォータースライダーだった。


 こんなのみたことない! すっごく楽しそう。そう思ったら、もう足は水しぶきをあげ、走り出していた。

 いったん水からあがり、ゆっくりと滝の横をのぼる。足をすべらせないように慎重しんちょうに。やっとこさ、上にたつと、下からみるより高さがあった。

 こわごわ岩にお尻をつけてすべろうとするけど、足がすくんですべれない。

 ぐずぐずしているあたしに、スズメたちが声をかける。


「この滝をすべれたら、島では一人前なんだぞ。がんばれ!」

 ゲンスズメがそういって、はげましてくれる。


「アスは女の子なんだ、無茶いうなよ」

 サブスズメがやさしいことをいう。


「アスにはできる。こいつはオレたちの仲間なんだから」


 仲間っていわれたら、悪い気はしない。固まりかけた勇気がほぐれてきた。でもまって、この滝をゲンたちもすべったってこと?


「スズメって、この滝すべれるの?」


「昔は普通だったんだよ、ごちゃごちゃ考えないで、ほらっいけ!」


 ゲンスズメはあたしの頭を、爪がするどい小さな足でけった。ひどいと抗議する前に、もうすべり始めていた。


 つるつるの岩の上をもうスピードですべっていく。すべるというよりも落ちている。かみは後ろへなびき、水しぶきがひきつったほほを打つ。緑の景色はものすごい速さで流れていく。あたし今、風になってる。こわいけど、最高に気持ちいい!


 そう思ったとたん、ドボーンと、滝つぼへ足からつっこんだ。 






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