目を背けたかったもの

彩山 唯月

第1話

僕は君が羨ましかったのかもしれません。



「カズー!」

「なんでしょうか、泉君」

後ろから抱きついてくる君を軽くかわしながら尋ねる。とは言っても彼の要件は大方予想がつく。

「なんでお前部活辞めちまったんだよ」

「...またその話ですか。受験に集中するためです」

この理由は半分は本当であとのもう半分は嘘だ。

3年生の部活の引退は1ヶ月後だから今辞めようが辞めまいがほとんど変わらない。それでも僕はすぐにあの場所を離れたかった。

「勿体ねぇ。あとたったの1ヶ月後じゃねぇかよ。折角最後の大会も俺達が優勝したのによォ」

「僕にはそのたったの1ヶ月が重要だった、それだけの事です。そういう君こそ大丈夫なんですか。この前の模試D判定だったんでしょう」

「んなっ、カズてめぇっ....!」

泉君はアホ面のまま固まってしまったので僕はそそくさとその場から去った。


泉君は明るくて、どこか抜けたところがある憎めないやつ。けれど部活では打って変わったように真剣に練習に取り組んでいた。そして彼は才能にも恵まれていたようで、1年の秋からレギュラーとして活躍している。

一方で僕は陰気で、空気のような存在。ましてや才能なんてものは微塵もなくて、中学のあいだは試合には出れないいわゆる二軍。それでも部活を続けていたのは泉君がいたからだ。彼は誰よりも努力をする人だった。朝は誰よりも早く練習を始め、放課後は誰よりも遅く残って練習をした。僕はそんな君に憧れを抱き、同じように練習を重ねた。そうして一緒に練習をするようになって、部活以外で泉君と過ごす時間も増えた。2年生に上がった頃にはお互いの家に泊まるくらいには仲良くなっていて、親友と呼んでも差し支えないような仲になっていた。

けれど僕の中では違う感情が芽生えていた。どうしたって開いていく技術の差、どれだけ努力しても埋まることの無い溝。妬みや恨みに近いそれを僕だけが抱えていることへの虚無感。そして、そんなこんなを差し引いても前に出てきてしまう、彼への愛しさがあった。


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目を背けたかったもの 彩山 唯月 @Yama_ayu

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