長旅と物思い

慣れ親しんだ道であれ、半日は長い。


最初の方で都市部を抜け、半ば過ぎぐらいからアイシャはすうすうと寝ている。


山岳と時折垣間見得る遺跡をぼうっと眺めながらヴェラは思案していた。


(汎用非実在空間拡張術って、非実在空間収納アイテムボックス長距離転送術式以外てんいまほうの何に応用できるんだろう…)


(小さい空間を大きくしたところで、物理的に拡張されてしまうから、精々小さい時に持ち運びが便利なぐらいだよね。やっぱりそれらの基礎研究の域を出ることはないかな…)


(仮に私の推理通り、ドラゴンの目が工房だったらどうだろう…?)


(元々小さく作ったミニチュアの工房を拡張することになるのかな…)


(流石にそれは無いか…)


ヴェラは今やドラゴンの目をほとんどそのもの工房だと確信していた。もう一度あの紙を取りだし目をやる。


~~~~~~~~~~


プロトコル


【解錠方法1】

1.不明な障壁魔法

2.光魔法光学操作による内部への光の侵入阻害

3.闇魔法認識阻害による解析妨害

4.闇魔法精神隷属によるなんらかの攻勢防壁


【解錠方法2】

1.不明な耐朽魔法(耐朽魔法か疑わしい)


~~~~~~~~~~


単に類縁術式やプロトコルが2種類用意されていることの他にも、失踪する最後の日に触ったことや、他に何も見つかってないことも合わさり、疑念は強まっている。


また、アイシャには言ってないが、ヴェラは光魔法光学操作による内部への光の侵入阻害にも違和感を持っていた。

この術式はあまりプロトコルに使われることは無いし、そしてこの魔法は、内部への光の侵入阻害、つまりドラゴンの目の中身を視覚的に観測できなくしていた。

通常の魔術的な情報であれは、物理的な形を持たないので、そもそも内部には何もなく、ドラゴンの目はただの目印としてのオブジェクトにすぎないはずだった。


しかし、ドラゴンの目は中が観測できず、そして汎用非実在空間拡張術がかけられている可能性がある。少なくとも、中には物理的な何かが封印されているに違いない。


「解いてからのお楽しみかな…」

そういって、またぼうっと窓の外に目をやる。


(今乗っているこの列車は、例えば汎用非実在空間拡張術が見つかって、それが長距離転送術式てんいまほうに応用できたりしたら時代遅れの産物になるんだろうな…)


(長距離転送術式てんいまほうなんてできるようになったら、私達は移動に時間などかけず、この美しい風景を見なくなるのかな。遺跡などみるのは物好きだけになるのだろうか…)


(長距離転送術式てんいまほうって、やっぱり輸送が便利だけど、なんといっても軍事を変えそうよね)

一国が持てばどう考えても、戦争がしやすくなる。単純な軍や兵器の移動に始まり、暗殺にはもってこいだ。敵の司令部どころか、首領にまでその牙は届きうる。

仮にみつけたとしたら、情報公開は同時に世界に公開する形で慎重に行わなければならないかもしれない。


(まぁ。アイシャが怖くなるのもわからなくないよね)

穏やかに眠る友人の頭を少し撫で、ヴェラもまた、しばし眠ることとした。





揺れる列車の中、アイシャは日差しと暖かさに目を覚ます。

目の前に座るヴェラもくぅくぅと寝ている。

眩しさに窓を覗くと、一面の青。海が広がっていた。

海が見えるということは、そう遠くない間にルクス村につくだろう。

固まった体を解そうと伸びをすると、お腹がくぅと鳴る。


「おなかすいた…」

アイシャは食べるものでも買って来ようと席をたち、コンパートメントの扉を開ける。

とはいっても、どちらに行けばよかったかしら…としばし逡巡するうち、食堂車が後ろだったことを思い出す。


列車の後ろを少し歩くと後ろで扉が開く音がしたので、音につられて後ろをみると、自分たちの一個手前のコンパートメント扉から、女の人が出てくる。


女の人は自分がアイシャに見られていることに気づき、一瞬困惑したが、すぐににっこりと笑顔になり会釈をする。アイシャは知らない人をまじまじと見つめてしまったことに気づき、少し気まずい気持ちで軽い会釈をしてまた食堂車に向かう




食堂車が近づくにつれて美味しそうな香りが漂ってくる。

匂いにつられて、またお腹がくぅと鳴り、何があるかなーと浮足立つ。


食堂車では多くの人が食事をとっており、これまたいい匂いがする。


軽食用のケースを見ると中にはいくつかのサラマラが入っている。

サラマラとは、野菜と肉や魚をいわゆるパンにはさんだもので、健康によいと人気だ。

アイシャは自分には魚と豆のファラフェルが入ったサラマラを、少し悩んだがヴェラにはいくつかの果物を買うことにした。

アイシャは買い物を終えて食堂車から戻る。

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