駅と果物
「あ、ありえる…」
ヴェラの発言にアイシャは圧倒される。
確かに汎用非実在空間拡張術ならそれが可能だ。
「ねぇ、アイシャ。これで類縁術式がかけられていたら、本物だと思わない?」
「うん…。私もそんな気がする。でも…」
こないだも、アイシャは解き明かすことを恐れていた。仮に汎用非実在空間拡張術が発見されたとしたら、世界は永久に変わってしまうだろう。良くも悪くも、常識が変わってしまう。
「でも、アイシャが解かなかったら、今のルクスフォード家に解ける人は居ないし、これから解けるか人が出てくるかもわからない。だからさ、やろうよアイシャ」
「……」
ヴェラの言葉に、アイシャは黙ってしまう
「怖いなら、一緒にいるから、大丈夫だよ」
「…うん。約束だよ」
アイシャは決意する。
「さて、アイシャ。ルクス村に帰ろっか」
「村に帰るの?確かにもう少し手がかりはほしいけど…類縁術式だけなら学院にいても出来ると思うよ?」
また、唐突だな、と、アイシャは思う。確かに手がかりを調べるには良い場所だが…
「あぁ、そっか。類縁術式ってあんまりやった事ないかな?」
「えぇ。でも仕組みはわかっているつもりよ?」
「んー。実はね、類縁術式の中には特定の場所…というか霊脈の上でしか起動しないものもあってね。ルクス村…というかアイシャの家でしか発動できない可能性もあるんだよ。そう言われると、ありえそうでしょ?」
「確かに…そう言われると類縁術式っぽくあるね。」
アイシャは納得し、口を開く
「ヴェラ。ルクス村に、帰ろう」
「実家に経費で帰るって、なんか不思議な気分だわ…」
アイシャはため息混じりに口を開く。
あれから5日経ち、2人は駅でルクス村へ帰る列車を待っていた。
5日間の間に2人は急いでトレビスに面会し、考察と帰郷する旨について報告した。
トレビスはというと、その考察に手放しでの賛同は出来ないが、アイディアとしてはいたく気に入ったようで、帰郷の費用に関しては経費で落としてよいと言ってくれた。
ルクス村は王都から列車で半日ほどの距離にある。村でありながら、研究都市としてのアクセスが多くあり、人口規模は少ない村としては利便性のある方だろう。
まだ列車はこないのでがあるのでヴェラはホームを見渡したが、自分たちと同じように数十人の客が列車を待っている。
子連れや、旅行と思しき老人達、学生など、多種多様な人が揃っている。
隣のベンチに座る背の高い男の人が新聞を読んでいたので一面を確認すると、カジャで最近発生した大規模な魔獣災害の話が書かれていた。
カジャは、ヴェラとアイシャが暮らす国であるサルシェキアからは少し離れた海洋に位置する熱帯圏の国で、いくつもの島からなる島嶼国となっている。
(魔獣災害の影響で、ナンシェが高くなるかもなぁ…)
ナンシェはカジャのあたりで取れる果物で、香り高く甘い果物で、黄色い外皮と、果物よりはバターのような滑らかな食感が特徴的だ。ヴェラは果物が好きで、よく食べているが、当然ナンシェも好きだった。
売店行ってくる、と、アイシャにつげ、ナンシェを買いに行く。
「ナンシェ2つください」
「はい、4リミル。紙はいる?」
お店のお兄さんは、そう言ってナンシェを2つ手に取る。
「お願いします」
ヴェラは6リミル硬貨を出し、2リミルを受け取る。手早く紙に包まれたナンシェを受け取り、アイシャの元へ戻る。
2人は、しばらくしてホームに滑り込んできた列車に乗り込み、コンパートメント席に座る。上着を脱ぎ、荷物を寄せるとと同じぐらいに電車は走り出した。
しばらく窓の外を見た後に、先程のナンシェを取り出す。
何買ったの?と聞くアイシャに、ひとつ渡す。
「ナンシェね。最近食べてないなー」
そういって、アイシャは受け取ったナンシェの皮を剥く。
「カジャが魔獣災害だったじゃん?ちょうど農園とかが多い辺りだし、しばらく供給止まるかなって」
ヴェラは先程の新聞でちらっと見た話をする。
「確かにそうかも。今ニュースになってるもんね。私の分もありがとう」
アイシャのお礼に対し、んーん、と適当な返事をしてヴェラはナンシェを齧った。
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【サルシェキア】
ヴェラやアイシャの暮らす国。王立第三魔法大学は王都にある。世界的に見ても教育と、魔術や技術に関する研究が盛んに行われており、中規模の国ながらも世界に与える影響は少なくない。サルシェの民と呼ばれることも。1年を通して比較的肌寒く、上着は欠かせない。南西部は沿岸に面しており、ルクス村はかなり海より、サルシェキアの中では暖かい方。
【カジャ】
熱帯圏の海洋に位置する島嶼国。気候がよく農業に適した立地を生かし、食料輸出を行っている。
【通貨体系】
サルシェキアではメム通貨体系が使われている。
1メム=12マラク
1マラク=12リミル
1リミル=144カハス
1マラク以上の貨幣は紙幣となっているが、徐々に物理的な貨幣ではなく、魔法で管理できる媒体へと移行しつつある。
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