考察
それからまた数日たって、ヴェラとアイシャは予定を合わせて会っていた。
「改めておさらいするけど、今、ドラゴンの目にはいくつかの耐朽魔法と追跡魔法の他に、光魔法契約術式による解錠順序の指定
がかかってて、こういう順序が判明している」
ヴェラは、そういって前にみせた紙をもう一度出す
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プロトコル
【解錠方法1】
1.不明な障壁魔法
2.光魔法光学操作による内部への光の侵入阻害
3.闇魔法認識阻害による解析妨害
4.闇魔法精神隷属によるなんらかの攻勢防壁
【解錠方法2】
1.不明な耐朽魔法(耐朽魔法か疑わしい)
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「アイシャは、あれからなんか成果あった?」
ヴェラは紙から顔を上げて尋ねる。
「ううん。属性魔法はあらかた試したけどダメ。あとはヴェラの言ってる外部からか類縁術式ぐらいしかないかなぁ」
さっぱり、と肩を竦めてアイシャはいう。
「そっかー。アイシャの方でも特にとっかかりないかー。やっぱりこの2つの魔法は基本属性じゃないんだろうね」
まー、そうだよねー、とヴェラも返す。
「あぁ。でも、途中でいくつか気になったことがあるかな」
なになに?と尋ねるヴェラに、アイシャはあの夜に感じた疑問を問いかける。
「汎用非実在空間拡張術の元になった現象と属性かー。私考えたことなかったな。ってかよく覚えてたね、属性の話」
そういって、ヴェラは考え始める。
「いや、私も忘れていたんだけど、たまたまライ君に属性と術式の関係について聞かれてね。その話をした夜に思いついたの」
「あ、ラインハルト君?元気してる?」
ヴェラの声が高くなる。ラインハルトは人当たりがよく、ヴェラとも親交がある。
「してるしてる。なんか、課題めっちゃ書いてケーキ食べてた」
「へー、いいね。彼には是非院進学してもらわないとね」
「そうねぇ…。もうちょっと勧誘しとかないとね」
サリア研究室の院生を増やすべく、アイシャはしばし思案に耽ける。
「あぁ、そういえば、私も思ったことがあるんだよね」
雑談の途中でヴェラがふと思い出す。
「目のこと?」
「そうそう」
そういって、席に座り直す。
「いやね、なんでアマデルは解除方法を2つ用意したんだと思う?」
「うーん。そう言われてみればそうね。普通は解除方法ってひとつのことが多いかも」
言われてみれば、不思議だ。
決められたプロトコルを理解しているなら、複数の魔法を解除することは手間ではないし、むしろこれでは2つの解き方を用意しているようなものだ。片方がダメだったらもう片方で挑めばいい。機密性は、その分失われている。
「私はね、アマデルは楽をしたかったんだと思うの」
ふふん、と、ヴェラは推理を披露する
「楽?」
確かに手間ではないと言っても4個解くより1個しか解かない方が楽ではあるが。
「そう。まずおかしいよね。2つの解き方があるってことは、解析に詰まった時に1つより解きやすいってことだし、しかもそのうち片方には魔法が1個しかかかってない。普通に考えたら、まずしない」
うん、と、アイシャはうなづく
「でもね、だからこそ、こう思うの。その1つの魔法は、アマデルにしか解けないんじゃないかって。それはアマデルしか知らない魔法だから」
「あー、それって、つまり」
ヴェラの次の言葉をアイシャは予想する。
「この1つの魔法って、汎用非実在空間拡張術なんじゃないかな」
「まぁ、それは私もありだと思う…でも同時に分からないこともあるわ」
アイシャは可能性を考えながら、同時に感じた疑問を提起する。
「うん?」
「例えこれが汎用非実在空間拡張術だったとして、ドラゴンの目はなんだっていうのよ。例えば障壁魔法とか保護魔法で情報として手がかりを残すって言うならわかるわよ。でも、汎用非実在空間拡張術って要するに見えない金庫みたいなものでしょ。工房の在処を示す地図でも入ってるってこと?」
つまりは、アイシャからすると、工房の手がかりに汎用非実在空間拡張術を使うメリットがわからないのだ。
「いやいや。違うよアイシャちゃん」
ヴェラは芝居がかった口調でアイシャに向き直る
「私はね、このドラゴンの目は工房そのものだと思うんだ。汎用非実在空間拡張術で空間を拡張した、ね。多分この小さな球の中に、君のひいおじいさんの工房があるんだ」
そういって、ヴェラはにっこりと笑った
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