属性魔法と傾向(3)

「ありがとうございます!今日も面白かったです」

「じゃ、また研究室でね」

ラインハルトは明日提出の課題があるそうで、アイシャに挨拶をし、去っていく。

もうすぐ夕方だが、カフェテラスにはまだ数人の人が座っている。


暗くなる前に帰ってしまおう。そうしてアイシャもまた、自分の家に戻るのだった。





夜にベッドで寝転びながら、アイシャはふといくつかの疑問に行きあたる。


(…そもそも、どうイメージしたら非実在空間なんて作れるのよ…)

1つ目の疑問は、''イメージ''の難しさだった。


(仮に、ひいおじいさまが汎用非実在空間拡張術を発見したのなら、それはどういう現象を元にした魔法なのかしら…)

カフェテラスの会話で「もとより魔法は、自然現象や人の営みを再現したものだ」とラインハルトに語ったし、アイシャ自身も''空間を拡張する''現象に心当たりがない。

というか、そんなものがあったらとっくに他の人に術式が開発されているだろう。


(透明の部屋の扉を開くイメージ…とか?)


(でもそうすると、''部屋''を作って、部屋を''浮かせ''、部屋を''見えなくする''で、土と風と光だわ…。3属性魔法の汎用施行は現実的じゃない…)

アイシャなりに、汎用非実在空間拡張術を模索し、混合魔法に行きあたる。

混合魔法はそれなりに高度な技術で、通常の属性魔法以上に精細なイメージと、精度の高い魔力操作を求められる。とても汎用技術とは言い難い。それに、その方法では見えない箱が着いてくるだけで、浮かせるために魔力も消費し続ける。あまり既存を超える便利な術式では無いだろう。

(汎用というからには、6属性単体か無属性よね…)



(だとすると、汎用非実在空間拡張術は何属性…?)

もうひとつの疑問は、その属性だった。


(基本の研究では、非実在空間自体は闇魔法で示唆されていた…。確か闇魔法の質量を増加させる術式を用いた観測で示唆されたとかだった気がする…)


(でも、あくまで副次的なもので、それ自体には空間をどうこうする力はなさそう…)


("空間を拡張する''、''ものが消える''、''空間を移動する''。このイメージを再現するものは何…?)

属性と紐付けるからには、既存の現象とのイメージの結び付けを探す必要がある。


(ものが消える……例えば神隠しは人が消える現象だけど、再現できないかな…)


(光属性かな。神っぽいし。)


(ダメだ…''消えてる''ことはわかっても、''消える方法''自体はわからない)

結果がわかっても、現象そのものが判明していなければ再現のしようがない。


(消える…?火とか…。ううん。でもあれは燃焼が終わるだけだからな…)


(ものが消える…泥棒…?風か闇と紐づけられそうだけど、物騒ね…)


(じゃあ無属性…?例えば''移動''の概念そのめのとか)


(移動の方法が多すぎる…)


(だめだ…わかんないや…今日は寝よ)

混乱するアイシャは徐々に眠くなり、ついには考えることをやめた。


「ヴェラなら…わかるかな…」

今度会った時に相談してみよう、そう口にしてあの天才のことを思いながらアイシャは眠りについた。




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