属性魔法と傾向(2)


「いや…全然分からないです。先輩。」

ラインハルトは、面食らって聞き返す。


「えーっと、どうしよ」

アイシャは伝わらなかったことに、ちょっと焦って、言葉を探す。


「なんか…ザハルナッシュ先輩みたいな感じです」

その突拍子もなさから、ラインハルトはここにいないヴェラのことを思い出す。


「あはは。確かにこの話はヴェラにしてもらった話だよ。ヴェラは史実科だから歴史の考察が専門だしね」

ヴェラも、かつて同じことを思って調べたそうだ。




「あぁ。それで。例えば雨や洪水は"水っぽいと認識している現象"だから、私たちは水属性魔法として扱っているよね。」

アイシャは例を挙げる

「じゃぁ、"ものを綺麗にする"は何属性っぽい?」


「あー、水…あと風ですかね。個人的には火も」

火属性のものを綺麗にする魔法はないですけれど、とラインハルトは付け加える


「いいよ、いいよ。それぞれどうして、ものを綺麗にできそうだと思ったの?」

アイシャはさらに尋ねる


「えーっと、水はものを洗ったりできますし、風は汚れを飛ばします。火は浄化の火とかいうじゃないですか。アンデッド系駆除のイメージですが」


「浄化の火は面白いね。浄化の火は光属性系として扱われることは多いよね。一般的には水と風が多いかな」


「それはわかりますけれど…でも火は、火じゃないですか。」


「うん。言われてみれば私もそう思う。火は火だね」

アイシャはそういって一旦言葉を区切る。

「じゃぁ、土とか闇はどうかな」


「土は汚れそうですね。闇は…腐敗とかのイメージがあります」

ラインハルトは答える。その答えにアイシャは微笑む。


「さて、改めて戻るけど、魔法にはイメージが大事。そして、魔法は現象を再現しようとしている。一般的に物を綺麗にできそうなイメージは水属性、風属性。だから"水属性"と"風属性"に物を綺麗にする魔法が存在する。ようは、その属性でその結果がイメージしやすいってこと」

アイシャの説明に、ラインハルトは、あー、と声を上げる。


「火属性魔法だから火が出せるんじゃない。火が出せるから、物を焦がせるから火属性魔法。詠唱や魔方陣にはそのイメージをサポートする言葉が使われている。じゃぁ、それで一番最初の疑問に戻るんだけど、ライ君は契約術式って何属性っぽいと思う?」


「うーん…どれもあんまりぴんとこないですけれど、強いて言うなら光かなぁ」


「どうして?」


「光って、正しさとか正義っぽい、気がします。契約裏切らなさそう。」


「そう。古来より光ってそういう象徴だし、光と闇のどっちが契約裏切らなさそうかって言われたら私も光な気がする。そしてね、光属性の契約術式はそういうイメージをもとに造られていて、実際に光属性の契約術式の魔方陣には、"正義"や"裁き"を意味する言葉が使われている」


あ、とラインハルトは声を上げる。

「あぁ。ようやくわかった気がします。光属性が契約術式なんじゃなくて、契約術式…契約が光属性っぽいんですね」


「そうそう。だから、君のいってた水の契約魔法も、君の中で水と契約を結びつけるイメージが構築できれば、成立する」

私はイメージできないけどね、と、アイシャは肩をすくめた


「面白いですね。属性魔法。奥が深いなぁ…」





「じゃぁ、無属性魔法ってのはなんなんですか?先輩」

しばらく話したのちに、ラインハルトは疑問に行き当たる。


「あぁ、無属性ね。さっき契約術式の話の中で、『どれもあんまりぴんとこない』って言ってたじゃない。世の中の現象や概念の中にはそういう属性と結びつけずらいものもあって、そういうものを属性にくっつけられないけど、なんとか魔法にしたものかな。無属性魔法に自然現象に関係する魔法は少なくてね、主に私たちの営みや技術を再現したものが多い。もしかしたら、人工属性と言い換えてもいいんじゃないかな。歴史的には属性魔法より無属性の方が後なんだよ。」


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