属性魔法と傾向(1)

類縁術式を一人で試したくはない、そうはいってもアイシャは手詰まっていた。


ここ数日に試した記録を書いたノートを見返しているが、対して進捗はない。

あれから、属性魔法をいくつか試したが、結果は芳しくなかったのだ


「うーん…やっぱりヴェラのとこ行って類縁術式を試してみるべきなのかなぁ…」

アイシャはそういって、学園敷地内のテラスでお茶を飲みながら考え事をしていた。




自分の名前を呼ぶ声がして、顔を上げる。


「アイシャ先輩、こんにちは!休憩中ですか?」

自分の名前を呼んだのは、ライ。ラインハルト・キリシェという二個下の男の子で、彼女と同じサリア研究室の学部生だ。彼が研究室に配属されてからアイシャは彼のメンターを受け持っている。


「うーん。そうね。そんなところかなぁ…。ライも休憩?」

ちょっと曖昧な笑みを浮かべながら、アイシャはそう返す。


「甘いものでもとってリフレッシュしようかなと!席座ってもいいですか?」

見るとラインハルトの持っているプレートには、ケーキとお茶が乗っている。

アイシャはテーブルに広げている資料を、少し片づけた。




ひとしきり雑談をしたのちに、ラインハルトは、そういえば、とつぶやいた。

「こないだのサリア先生の授業でわかんないところあったんですけど、聞いてもいいですか?」

サリア先生は属性科の教授の一人であり、アイシャとラインハルトの在籍している研究室の教授でもある。当然、授業は魔法と属性についてがテーマだ。


「いいよ。今授業はどんなことをやってるの?」

アイシャは席に座りなおして、ラインハルトに尋ねる。


「今は、属性魔法の応用…っていうか、代替…?属性魔法でほかの属性の魔法を再現する…ってやつなんですけど」

アイシャは属性魔法の応用を研究テーマとして専攻しているので、わかるんじゃないか、ラインハルトはそう思って訪ねたのだ。


「あぁ。あるね。私は属性代替は専門じゃないけど、確かに属性魔法の応用分野だし、そこら辺の人よりは詳しいかな。どこらへんで詰まったの?」


「属性代替に詰まった…というか、属性なのかな。俺、いまいちどの属性が何できるか、いまだにわかってない節あるんですよね」


その問いにアイシャは首をかしげる。属性魔法にできることは明白ではないだろうか

「えーっと、例えば水属性の魔法なら水にできることができると思うのだけれど」


そこなんですよ、とラインハルトは返す。

「そこなんですよ。そこ。例えば水属性魔法で水を操るのはわかりますよ。でも、なんで光属性で契約術式なんですか?無属性の契約術式もあるし、光と契約ってそんなに関係ないじゃないですか。水属性で契約術式ができないんですか?」

アイシャはそこで彼の疑問を理解する。同時に、面白いところに目を付けたなと、嬉しくなる。ラインハルトの前提に疑問を持つ姿勢は研究者に向いている。


「できるよ。水の契約魔法」

アイシャはラインハルトに答える。


「そうなんですか?聞いたことないですけれど」

ラインハルトは聞き返す


「ちょっと長くなるけど、大丈夫?」





この後授業ないんで、というラインハルトにアイシャは説明を始める。


「ライが言ってるのは、たぶん属性という概念そのものについてだね」

「そうなんですか?自分でも何見ればいいかかよくわからなくて…」


「まず、魔法を使うときに大事とされるのはなんですか?」

アイシャはラインハルトに問いかける


「詠唱や魔方陣の構成、ですかね」

ラインハルトは答える。


「それだと60点かな。では、詠唱や魔方陣は何のために存在している?」


ラインハルトは少しだけ考えて、気づく。

「わかった。現象のイメージですね。詠唱や魔方陣で、現象のイメージをサポートします」


「そうそう。魔法にはイメージが大事。じゃ、次に6つの基本属性を挙げて」

そういってアイシャはラインハルトに問題を出す。


「火、水、風、土、光、闇ですね。」

ラインハルトは即答する。この辺は魔法使わなくても知っているレベルの常識だ。




「じゃぁ次の問題。その6つの属性は誰がどうやって決めたの?」

アイシャはにっこりして問いかける。


「え…。大昔の人…?」

予想していなかった問いかけに、ラインハルトは詰まる。


「どうやって?」

アイシャはさらに掘り下げる。


「うーん…精霊かな?各属性には対応する属性をもった精霊たちが存在し、大昔から人は精霊の助けを借りて魔法を行使してきた。それであれば、精霊が属性を決めたんじゃないかと思うんですけれど」

ラインハルトは授業の知識を組み合わせて答える。


「そう思うでしょ。でもそうじゃないの」

アイシャは楽しくなってくる。後輩が自分の専門分野に興味を持ってくれるのは嬉しい、という感じだ。

「そうなんですか?」

ラインハルトは不思議そうな顔をする。


「うん。そもそも魔法は自然現象を人間が再現しようとしたところから始まって、そこから属性に対応する精霊が発見された。そこから力を借りることで最初の属性魔法が誕生したの」


「そうなんだ…。でもそれがどう関係あるんですか?」

知らなかった、とつぶやくラインハルトだが、前の疑問の答えにはつながっていない。


「うーんと、それでね、私たちが属性と認識しているもの。例えば"水"として認識している概念に沿った精霊や魔法に、水の精霊、水属性の魔法と名付けたの」

アイシャは一息つく。


「えぇ…。」

いまだに要領を得ない。




「つまり、私たちが"水っぽいと認識している現象"に、水属性と名付けたの」


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名前:ラインハルト・キリシェ

性別:男性

年齢:19

出身:ラムナスファーク

所属:王立第三魔法大学大学院 属性科 サリア研究室

得意術式:属性術(火)

説明:サリア研究室の後輩。アイシャは彼のメンターを受け持っており、「いい意味で遠慮がない」という印象。人当たりがよく勤勉であり、友好関係も広い。卒業後は院進学検討している。

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