ドラゴンの目
「さて、この球ですが、私の見立てでは9個ほど魔法がかかっていますね。耐朽魔法が3つに、障壁が4つ、追跡魔法が2つというところでしょうか。耐朽魔法の1つはもう消えかかっていますね。詳細に関しては詳しく調査しないとわかりませんが。かなり堅そうですね。」ヴェラは球を指先ではじいて音を確かめている。
トレビスはその発言に苦笑する。自分たちの行った解析のうち、最初の3日間はどのような魔法がかかっているかを割り出すために費やしたことを思い出す。数だけとはいえ、それを一瞬で行われたのだ。
「ええ、その通りです。本来は認識阻害魔法が2つかかっていたのですが、それはすでに解除してあります。また、追跡魔法のうちの一つは我々がかけたものとなります。後学までに先ほどの箱も含めてどのように魔法を解析したかを聞いても良いですか?私たちはそれを割り出すのに3日はかかったのですが…」トレビスは思わず聞いてしまう。
「あぁ、それならこれです」といって自分のかけていた眼鏡をはずし、トレビスに渡す。
「これは…?」トレビスは眼鏡を受け取りかけながら聞く。
「これは本来魔力の流れを見るための眼鏡なのですが、見た際に任意の対象に軽微な医療魔法をかけることができるように改造しています。その際に魔法が対象に到達するまでに何回干渉されたかを見ることで、おおよそかけられている魔法の数がわかります」
「なるほど、干渉された回数を使うのは面白いアイディアですね。しかし、それだとかけられている魔法の種類まではわからないのではないですか?」トレビスは疑問を訪ねる。
「ヴェラは干渉されたときの波形を覚えてるんですよ」アイシャが補足する。
「波形を覚えているんですか!?どう考えても人にでできることではないと思うんですが…」トレビスはすっかりヴェラに驚かされてばっかりだった。
「えぇ、普通じゃないわ…ヴェラはいつもそうなのよ…」そういい、アイシャは自分はちっとも覚えられなかったことを思いだしていた。
「ところで、依頼ということですが、資料や機材でのサポートはありますか?」ヴェラは話を戻す。何かを調べようにも、アイシャとの二人では足りないだろう。
「引き受けていただけるようなら、我々の行った調査の資料をお渡ししましょう。また、可能な限り機材面でのサポートも可能です。この件は私が窓口として担当することになっているのですが、私ともう1人の部下であれば適宜お手伝いすることが可能です」
「わかりました。では、報酬に関してはどのようになっていますか?」ヴェラはさらに問いかける。
「こちらは前金で80万、これが何か判明すれば達成報酬として400万となっています。それ以降は決まっていませんが、仮にこの手がかりを基に工房に立ち入ることが出来たら3000万はかたいでしょうね。もちろん経費や機材に関してはこちらで持たせていただきます」もっとも、工房の位置も工房の鍵も分かっていない以上、これだけで判明するとは思えないですが、とトレビスは付け加える。
「それで、調査を引き受けてもらえますか?」
トレビスはヴェラを見つめる。
「それでしたらこちらで引き受けたいと思います。工房の探索や解錠はいくつかやったことがありますし、ここまでの大物の経験はありませんが、お役に立てるかもしれないと考えています。それに、大学には考術士や鑑定士などもいるため、柔軟に対応が可能です」もっとも、ヴェラは考術士や鑑定士などの才覚にも長けており、大抵のことは一人でできるのだが。
「おお。引き受けてくれるなら幸いだ。早速、契約書を交わしたい」
トレビスは懐から一枚の羊皮紙を出した。
ヴェラがアイシャを含めて2人で契約書に書き込むと、トレビスがそれをしまい、右手を差し出す。
「それでは、よろしくお願いします」
ヴェラはその手を握り返した。
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【耐朽魔法】
時間の経過や環境の変化に対応するため、何らかの形で外部から対象を隔絶する魔法。日常生活でも広く使われ、例えば食料品の保存などにも活用されている。
【障壁魔法】
外部からの攻撃を防ぐ魔法。
干渉により防御する、攻撃に対応して迎撃するなど、種類は多岐にわたる。
医療魔法を使ったのは、迎撃を避けるため。
【追跡魔法】
対象の場所、状態などを追跡する魔法。物をなくさないようになど。
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