アイシャとアマデル
「ほ、ほんとうなの!?
アイシャは思わず取り乱す。
「しぃっ、声が大きいよアイシャ。それをこれから私達が調べることになるんだよ。でも多分あるんじゃないかな」
人差し指を口に当てながらそういうヴェラに諭され、周囲の目線が急に大きな声を出した自分に集まったことに気づいた。少し恥ずかしい気持ちだ。
「それでね、もう図書館に依頼人が待っているみたいなの。当然あなたも来るでしょ?」
改めて、ヴェラがアイシャに向き直り、問いかける。
「ええ、もちろん行くわ。ついにこの時が来たのね…」
アマデル・エム・ルクスフォードの工房とそこに残されているであろう汎用非実在空間拡張術は、一族の悲願でもあり、彼女が王都に来た理由でもある。
二人はもうしばらく歩き、図書館へと着く。
図書館は許可されたもののみが入ることができ、学生であれば出入りは自由だ。
学生証を認証装置にかざし、受付へ向かう。
「すみません、私への依頼が来ていると思うんですけれど」
ヴェラはカウンターにいる眼鏡をかけた男性へと話しかける。
ここでは彼女はちょっとした有名人だから、今更名乗る必要もない。
「あぁ、ザハルナッシュさん。確かに君を訪ねて王立魔導研究所の方が来ていますね。3階の応接室に通しているから、すぐに行ってください」
当然、男性は
「ありがとう!何人ぐらい居ましたか?」
ヴェラはふと気になって、階段を向かう途中に男性に問いかける。
男性は一瞬宙を見つめて思い出し、ヴェラに3人であったことを告げる。
研究員らしき人が1人、それから憲兵が2人だそうだ。
「憲兵とは穏やかじゃないね」とアイシャが毒づきながら階段をのぼる。
怪訝そうな顔をするアイシャにクスッと笑いながら、ヴェラは答える。
「そうかな。拡張術式に関わることだから、もっとついてもおかしくないと思うよ。きっと護衛でしょ」
そう言いながら二人は3階にたどり着く。
「まぁそうね。なにせ、
応接室の前には1人の憲兵が立っている。
「あの、私はこういうものです」
ヴェラは憲兵に話しかけ、大学の在籍証を見せる。
「ヴェラ・ザハルナッシュ様ですね。本日はご足労いただきありがとうございます。お呼びしたのはあなただけのはずですが、そちらはどなたでしょうか」
憲兵はアイシャに尋ねる。
「あぁ、この子はアイシャ。アマデル・エム・ルクスフォードのひ孫に当たります。私の判断で連れてきました。」
アイシャは、アイシャ・エム・ルクスフォードです、と自分の在籍証を提示する。
憲兵は在籍表を受け取り、文字を確認する。
「なるほど。ルクスフォード様ですね。ご提示ありがとうございます。あなたを同席させて良いか、一応確認します。少しお待ちください。」
憲兵はそう述べると、部屋の扉をノックし、入室する。
すぐに扉を閉め、中で会話をしているようだ。
数分して、また扉が開き、憲兵が口を開く。
「どうぞ、ザハルナッシュ様、ルクスフォード様、お入りください」
二人は、招かれるまま、応接室へと入る。
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【アマデル・エム・ルクスフォード】
性別:男性
説明:稀代の大魔術師にして、大発明家、そしてアイシャの曽祖父。
アマデルは数々の業績を元に名誉貴族となり、以来アマデル・エム・ルクスフォードを名乗ることとなる。
彼は与えられた領地に自らと志を同じくするものを集めたルクス村という小さな村を作り、そこの村長になる。
また、特に無形術の分野で様々な業績を残したが、中年期には汎用非実在空間拡張術に取り掛かり、晩年完成させたと言われる。一方で、彼は最後に失踪しており、家族ですらその実を知らされていない。
相続の時点でアマデルの兄弟は死没しており、子供とユリウスとケイラは聡明であったため、覇権争いとはならなかった。息子であるユリウスは人生の長きを父親の工房の探索につとめたが、ついぞ見つからなかった。
彼の汎用非実在空間拡張術の研究はその術式と共に秘匿されたが、陽の目を見ることはなく、以降の一族の悲願ともなる。
【汎用非実在空間拡張術】
属性に依存せず誰にでも使える、非実在空間を拡張する術。
7大問題の一つであり、数多の魔術師が挑戦した難問であるが、未だおおよその理論のみで実証されていない。非実在空間自体は闇魔法の応用術式により示唆されているが、実際には確認されていない。
つまるところ、異空間にアクセスする魔法体系である。
その用途は多岐に渡るとされ、
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