第279話

 よろける大河原、この機を逃してはいけない。

 僕はそこから再び木刀を大河原の背中に振るう。


「ふん!!」


「ぐあっ!!」


 遂に膝を付きその場に倒れる大河原。


「勝負あったようだね」


「はぁ……はぁ……お前やっぱりやるなぁ」


 片膝を着いてニヤリと笑い大河原は楽しそうにそう言う。

 

「最高だ! お前見たいな強い奴を待ってた!」


「頭でも撃って可笑しくなったのかい? 優勢なのはコッチだよ」


「それはどうかな!!」


「なっ!」


 先ほどまで膝を着いていた大河原が素早く立ち上がり拳を振るってくる。

 その素早さは尋常ではなくガードをするのがやっとだった。


「くっ!」


「おらおら! どうしたどうした! おまえはそんなもんじゃないだろ!?」


 次々に繰り出される大河原の攻撃。

 どこにこんな力が残っていたのかと疑問に思うほど、そのパワーは凄まじく攻撃の速度も素早い。

 だが、こちらもまだ本気なんて出していない。

 だからここからが本気だ。


「悪いけど……もう本気で行くよ」


「強がってたんじゃねぇよ! その木刀へし折ってやるよ!!」


 殴り掛かってくる大河原、僕は目を閉じ木刀を構える。

 そして……。


「はっ!!」


「あがっ!!」


 木刀を振るい、大河原を空中に吹き飛ばした。

 大河原はそのまま地面に落下し動けなくなった。


「な……何が……」


「言っただろ? 本気で行くって」


「お、お前……二刀流が本気……なんじゃ……」


「木刀を二本持っても型を使ってないんだから本気なわけないだろ? 今のが二刀流の型の一つだよ」


「……ふっ……お前、強いな……」


「それで彼女達の居場所は教えてくれるのかい?」


「……あぁ、俺は佐崎とは違う。約束は守るさ」





 廃工場に到着すると既に工場入口の不良たちは倒されていた。

 それが高弥の仕業であることは容易に想像が出来た。


「高弥が先に来てるなら俺達もさっさと合流するぞ」


「はいっす!」


「でも島並さん、どうやら後ろから別なお客さんが来たようです」


「あぁ……だな」


 俺達が工場に入ったのを見計らってか、工場の入口付近の広場から大勢のノーネームメンバーと俺を撃った佐崎という男が歩いてきた。


「やぁやぁ、良く来てくれたねぇ~」


「佐崎……」


「あ、名前覚えてくれたんだね? ありがとう~」


「御託は良いんだよ……城崎さんはどこだ?」


「まぁまぁ、焦らないでくれよ。彼女はこの後撮影があるから控室に居るよ」


「控室?」


「あぁ、なんたってこれから彼女はAV女優としてデビューするんだからね」


 俺は佐崎のその下劣な言葉に怒りを覚え、我を忘れそうになった。

 しかし、そんな俺を制したのは初白だった。


「先輩、惑わされないでください。真木先輩だっているんです」


「だが……」


「感情に流されたらあの人達の思う壺です」


 そうこうしているとまたしても佐崎が話し始める。


「あれあれ? 喧嘩場に女なんか連れてきて大丈夫? 君たちが負けたらその子もどうなるか分からないよぉ~」


「てめぇいい加減にしろ!」


「舐めやがって! ぶっ殺してやる」


 そんな佐崎の言葉に悟と大島が反応する。

 俺も叫びそうだった。

 しかし、初白がそれを止めていた。

 

「先輩、お願いします。冷静に」


「……あぁ」


 初白の言う通りだ。

 頭に血を上らせて冷静さを欠いてしまったら勝てる喧嘩も勝てない。

 

「じゃぁとっと君たちぶちのめして、俺達は撮影に向かおうかなぁ~」


「佐崎……ゲス野郎が!」


「おやぁ? そこにいるのは負け犬の三谷君じゃな~い。前総長は元気?」


「てめぇ!!」


 佐崎の煽りに三谷が前に出ようとする。

 しかし、佐崎が三谷に向けて拳銃を取り出し、三谷は動けなくなった。

 

「あははは、拳銃ってすごいよなぁ! 腕っぷしなんか強くなくても相手を圧倒できる!」


「卑怯な……」


「これがある限りお前達に勝ち目なんてねぇんだよ! 負けを認めて這いつくばれ! あははははは!!」


 高笑いを浮かべる佐崎達。

 そこで俺の我慢は限界だった。


「初白」


「なんですか?」


「悪い、始める」


「冷静ですか?」


「あぁ、お前のおかげだ」


「勝てますか?」


「楽勝だ」


「……私を守ってくれますか?」


「余裕」


 俺がそう言うと初白は俺を制していた手を下ろした。


「死なないで下さい」


「任せろ」


 俺はそう言って佐崎の方に歩いて行く。

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