第277話



 喧嘩なんて強くても良いことなんてないと思っていた。

 だから平斗が誰かを助けようとするときにいつも思っていた。

 なんでそんな自分の得にならない事を進んでするのかと。

 でも今なら分かる。

 喧嘩に多少自身があって良かった。

 こういう時に無駄だと思ってたことが役に経つ。

 剣術はお爺さんに教わった。

 喧嘩に使うようになったのは中学の頃だった。

 喧嘩に剣を使う事に父さんもお爺さんも何も言わなかった。

 しかし、二人には一言だけ同じ事を言われた。


「力は己の物だ。自分で正しいと思うなら誰も使い方に文句は言わない」


 その意味が昔は良く分からなかった。

 でも今ならよくわかる。

 この力は自分の物だけど、他人の為に使う為にお爺さんは俺に剣を教えてくれたんだ。


「さて……」


 僕は廃工場にやってきて眼の前に立ちふさがる不良数十人に向かって木刀を構える。


「さっさとそこをどいて貰おうか?」


「何言ってんだこいつ?」


「この間うちの大河原さんにボコられたじゃん」


「あははは! おいお前らさっさとやっちまおうぜ!」


 こういう馬鹿は嫌いだ。

 自分の実力を見誤っている。

 僕がこんな奴らに負けるなんてことは無い。

 なんたって今日の僕は……。


「はぁ? 二刀流? ふぅ~カッコいい~」


「二本あっても別に直ぐ強くはなれないんだぞぉ~」


 二本の木刀を構える僕を他の不良達は馬鹿にしてくる。


「まぁ試してみなよ……でも気を付けてね。僕今……機嫌悪いから」





「おい、お前らか? この町で好き勝手してるノーネームとかいう不良グループは?」


「う……うぅ……」


「お、お前何者だ……」


「誰だって良いだろ? さっきお前ら確か島並を探してるって言ったな?」


「そ、それがなんだって言うんだ……」


「お前ら……島並に何をする気だ?」


「し、知らねーよ! 俺たちは総長からそいつを連れて来いって……だから病院とかを……」


「病院? なんでだ?」


「そ、それはうちの総長が拳銃でそいつを撃ったから……」


「……なるほど……おい、お前らのたまり場を教えろよ」


「お、教えるわけねぇだろ!」


「そうか……じゃぁもう一発行くか?」


「ひっ! や、やめろ! 言う! 言うから!!」


「よし、さっさと言えよ」


 まさかあの馬鹿、また変なことに首をツッコんでるとはな……しかも今回はかなりデカい不良チームか……。


「たくあの馬鹿……頼れっつたろうがよ……」


 俺はそんなことを呟きながら教えて貰った場所に向かう。

 

「さて……様子を見に行くか」


 あの馬鹿の顔を見るのは数カ月ぶりだけどまた随分厄介な事に巻き込まれてんじゃねぇかよ。


「お、お前……一体何なんだ……」


「あぁ? 誰って……その島並ってやつの知り合いだよ……悪いけどお前らのチーム潰すから」


 さて、あいつに会うのは夏休み前の病院以来か?

 




 

「な、なんだこれ……」


「もう誰かが暴れてるんですかね?」


「でも……この数を……一体誰が?」


 廃工場に到着した俺達を待っていたのはその場に倒れた多くのノーネームメンバーだった。

 失神している者もおり、既に喧嘩をした後だった。

 一体俺達以外に誰がこんなことを?

 そう考えた瞬間、そんな事をするのは一人しか居ないと気が付いた。

 

「まさか……あいつも来てるのか……」


「で、でもそうだとしてもあの人も病み上がりのはず……」


「なのにここまで……」


「だけど、あいつ以外にそんな奴は居ないだろ……どうやら先に来ておっぱじめてるみたいだな……高弥……」



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