第276話

「ありがとうございます」


「あ、君!!」


 僕は男性二人にお礼を言い走りだしていた。

 恐らく倉敷さんは女の子を助けようとして巻き込まれたのだ。


「どこまでも……似てる……」


 僕は男性から聞いた路地に向かった。

 しかし、既にそこには誰も居ない。

 

「もう居ないか……あの廃工場に行けば何か分かるか?」


 それともそこら辺にたむろっているノーネームのメンバーに居場所を吐かせるか……どっちにしても時間が掛かりすぎる。

 連れ去ったとすれば恐らく奴らが根城にしている廃工場だろう。

 僕は直ぐに廃工場に向かった。

 戦力差は歴然かもしれない、冷静に考えて平斗にも事情を説明して一緒に来てもらえば良かったのかもしれない。

 でも、僕の身体はもう既に動き始めていた。



「……クソっ! 高弥の奴出ねぇ……」


 こんな時に限って連絡がつかない。

 このままだと城崎さんの身に何があるか分からない。

 一体どうしたら良い?

 一人で殴り込んだとしてもまたこの前のように銃を使われ、大勢で襲われたら俺だって勝ち目はない。

 一心に連絡して協力を頼むか?

 でも、あいつらもまだ怪我が治ってない。

 

「っく……」


「あ、兄貴!!」


「こんな所に居たんですね!」


「大島に悟? お前らどうかしたのか?」


「あぁ、いや初白から頼まれて……」


「兄貴を一緒に探してくれって言われまして、目を離すと何をするか分からないのでって」


 俺が悩んでいると大島と悟、そして初白が不機嫌そうに顔を歪めてやってきた。

 

「もう、目を離すと直ぐどっか行くんですから!」


「今はそんな場合じゃないんだ」


「どうかしたんですか兄貴?」


「島並さん、またノーネームの連中ですか?」


「……城埼さんがノーネームに拉致られた」


「え!?」


「マジかよ、あいつら!!」


「そんな……」


 三人は驚いていた。

 特に初白は友人のピンチに動揺していた。

 

「俺は今から城埼さんを助けに行く」


「俺達も行きます!」


「力になります! 連れって下さい!」


「……悪い、頼む」


 正直二人のこの言葉に俺は期待していた。

 これで戦力は三人。

 一人よりは全然マシだ。

 しかし、それでもやはり向こうの戦力には劣る。

 だが、今はこの三人で行くしかない、俺はそう思っていた。


「ダメです!!」


「……初白」


 俺達が城埼さんを助けに行こうとすると初白が険しい表情で俺に言う。


「これは私達子供喧嘩の範疇を遥かに越えてます! ここは警察に任せるべきです!」


「は、初白でもな、警察に連絡する間にも城埼が何をされるか……」


「大島君は黙ってて! 先輩! また撃たれたいんですか? やっと怪我が治り始めたんですよ! 今度は死んじゃうかもしれないですよ!?」


「………」


「初白……それは……」


「先輩がこれ以上無理をする必要なんて……」


 そう言いかけた初白の頭に俺は手を乗せた。


「必要あるんだ、城埼さんはうちの道場の門下生。助けに行くには十分な理由だ。それにあいつが……佐崎が俺を呼んでるんだ」


「でも!! ……死んだら……どうするんですか?」


 初白はそう言いながら俺の制服の袖をぎゅっと掴み涙を浮かべる。


「約束する。絶対に無事で帰ってくる。だから行かせてくれ」


「信用できないです……」


「初白、このままじゃ城埼さんが!!」


「……なので私も行きます」


「え?」


「そんなに行きたないなら私を連れて行ってください」


「な、なんでそうなる! 危険だ!」


「だからです!」


「え……」


「先輩が無事に帰るかどうかこの目で見届けます。じゃないと先輩は平気で怪我をしますから。それにいざって時に助けを呼ぶ人は必要でしょ?」


 涙を浮かべながら笑みを浮かべる初白、しかしその身体は震えていた。

 きっとこいつは俺が危なくなったら直ぐに警察に連絡が出来るようにと自分も行くと言っているのだろう。

 でも危ない。

 危険すぎる。

 俺が守ってやれるかも分からない。

 いや、違う。

 守られようとしているのは俺なのかもしれない。

 初白はずっと俺が怪我をしないように、無茶をしないように見張っていた。

 それは俺を守っていたのと同じだ。

 こんなに細くて小さな身体で……なのに俺は情けなくも守れるか分からないなんて……。

 

「わかった。一緒に行こう」


「あ、兄貴!」


「島並さんそれは!」


「大丈夫だ。必ず俺が守る。何があっても……もうあんな無様はしない」

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