第275話



 翌朝、いつも以上に街に不良が多かった。

 全員ノーネームの奴だということは直ぐに分かった。

 だからこの日は何か起きるんじゃないかと思っていた。

 でもまさか……こんな事になるなんて思っても見なかった。


「おい、アンタこの前うちの佐崎さんに撃たれた奴だよな?」


「あぁ? なんかようか?」


 下校時に絡まれて俺は機嫌が悪かった。

 話し掛けてきた奴らも俺が負けたと知っているからか、余裕そうな笑みを浮かべながら話掛けてきた。

 初白が居なくて良かったとこの時の俺はそう思った。

 きっと初白がいたらまた心配を掛ける所だった。


「へへ、佐崎さんから伝言だ。知り合いの子が大切ならまたあの廃工場に来いってよ」


「知り合いの子? 一体誰の事だ?」


「いててて!! お、俺をボコってもしかたねぇぞ!!」


「あぁ? ただの憂さ晴らしだよ……俺は機嫌が悪いんだ」


「ひっ!」


「お、おい何ビビってんだ! こんな奴三人でやっちまえば良い! そうすれば佐崎さんに認めて貰えるかもしれねぇし!」


「あ? 三人ごときで俺をやれると思ってんのか?」


「か、構うことはねぇ! やっちまえ!!」


 俺も舐められたもんだ……まさか三人ごときで俺がやれるなんて思ってたのか。

 もちろん、三人ごときに苦戦する俺ではない。


「それで、お前ら俺の知り合いに何をした? 言わないと……どうなるか分かってんだろうなぁ……」


「ひっ! す、すいません!! で、でも俺達もただ伝言を頼まれただけで……」


「そうか、言わないのか……腕と足……どっちを折ってほしい?」


「そ、そんな! やめ……やめてくれ!! そ、そうだ!! 確か拉致った子はお嬢様学校に通ってるって!!」


「まさか!? 城崎さんを! てめぇ!! その子は関係ないだろ! なんで拉致った!!」


「そ、それはアンタが島波道場の師範の孫だから……見せしめに血祭に上げるためにおびき出すって……」


「なんだと……」


 また、俺のせいで俺の知り合いに迷惑を……。

 俺は自分の無力さに苛立ちを感じていた。

 何が守るだ……危険に合わせてるのは俺自身じゃないか。


「おい、佐崎に伝えておけ……その子に手を出したら俺が必ずお前を殺すってな」


 俺は不良たちをその場に残し、急いで高弥と一心に連絡を取った。

 




「え? 帰ってない?」


「そうなのよ……あの子いつもはこの時間に帰って来てるのに……」


 帰宅した僕を待っていたのは母のその一言だった。

 家に居候している倉敷さんが今日はまだ帰ってきて居ないらしい。

 今日も下校するさいに迎えに行ったのだが、どうやら倉敷さんは僕より先に帰ってしまったらしい。

 嫌な予感がした。

 だから僕は直ぐに外をに出て倉敷さんを探しに向かった。

 通学路や倉敷さんの兄が入院している病院の近くなどを探してみたがどこにもいない。


「一体どこに……」


 スマホにも出ない。

 今はノーネームの奴らの動きが活発になっている。

 一人で出歩くのが危険なことは倉敷さんも分かっているはずだ。

 そんな事を考えていると駅前で若い男性二人が話をしているのが聞こえてきた。


「なぁ、あの女の子達ヤバイよな」


「でも、あの絡んでた奴らって最近ここらへんを縄張りにしてる不良グループだろ? 警察も手を焼いてるって聞いたぜ? 俺達が助けられるわけねぇよ……」


「でもよぉ……」


「あの! その女の子達ってどんな子ですか!?」


「え?」


 俺は話をしていた男性二人に詳しく話を聞いた。

 どうやらつい先ほど、近くの路上で女の子二人がノーネームのメンバーに絡まれ何処かに連れていかれてしまったらしい。


「女の子の特徴は? どんな子でしたか?」


「えっと……確か金髪の可愛い子だったけど……」


 金髪というだけで僕はその女の子が倉敷さんだと何となくわかってしまった。

 しかも女の子は二人いたらしい。

 もしかしたら倉敷さんはもう一人を助けようとして……。


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