第267話

「こんな奴さぁ~これで一発っしょ? なにまごまごしてんのよぉ~」


「邪魔するな、これはお互いのプライドを掛けた戦いだ! 余計な真似すんじゃねぇ」


「あれあれ? もしかして怒ってる? 怖いなぁ~でもそこの彼はもう動けないし決着着いたでしょ? さっさとこっから逃げようよ」


「……っち……」


 薄れゆく意識の中、晴郎と金髪チャラ男の佐崎が去っていくのが見えた。

 それに続いて他の不良たちも何処かに消えて行く。

 腹が痛い。

 なんだか眠い。

 俺は一体どうなるんだ……。

 そんな事を考えているうちに俺は意識を失った。



「兄貴! しっかりしてくれ!」


「そんな……島並さんが……」


「しっかりしろ悟! 早く救急車だ!」


「わ、分かってる!」


 眼の前で憧れの人が撃たれ、血を流して倒れている姿に俺は同様した。

 悟に救急車を呼ぶように言ったが、それ以外に俺も何をしていいか分からない。

 兄貴の横には頭から血を流す真木先輩がいる。

 まさか、この人たちが負けるなんて……。

 ほどなくして救急車が到着し、真木先輩と兄貴は運ばれていった。

 俺たちは病院に向かい、二人の家族に連絡をした。


「なぁ……兄貴死なないよな?」


「馬鹿な事を言うな! あの人が死ぬわけ……」


「でもよ……」


「うるさい! 何も言うな!」


 病院で俺と悟は兄貴の手術が終わるのを待っていた。

 ノーネームの前総長派閥の連中も一緒に来てくれた。


「すまない……俺達がこんなことに巻き込んだせいで……」


 前総長派閥のリーダーである一心さんが涙ながらに俺達に謝罪する。

 

「アンタのせいじゃ……俺がもっと役に立ってれば……」


 その場の全員は兄貴達の無事を願っていた。

 そんな中俺はとある人物に連絡を取ろうとしていた。

 もし、兄貴が死んでしまった時、彼女を呼ばなかったらきっと俺は後悔すると思ったからだ。


「も、もしもし……は、初白さんですか?」





「はぁ……はぁ……」


 休日の夕方、私は走って病院に向かっていた。

 電話で島並先輩が撃たれたと聞き、私はいてもたってもいられず家を飛び出した。

 

「先輩……」


 嫌な事ばかり考えてしまう。

 もし先輩が死んでしまったらどうしよう。

 そんな嫌な事を考えると目に涙が浮かんでくる。


「無茶しないでって行ったのに……」


 夏休みに先輩に言ったその言葉。

 でも、私は先輩はきっと守ってくれないだろうと思っていた。

 だって先輩は他人の為に無茶をする人だって知ってるから。

 でも………まさか撃たれるなんて……。

 あの人が死ぬわけなんてない、そう思いたい。 

 でも、こう言う時はどうしても悪い方に考えてしまう。

 

「早く……早くしないと」


 まだ私は先輩に何も言えていない。

 神様、お願いだから先輩を奪わないで……。



 昔の夢を見た。


「ここは……」


 住宅街にあるマンション。

 その隣には大きな公園がある。

 そこでは二人の子供が砂場で砂遊びをしていた。

 その子供には見覚えがあった。


「……俺と晴郎……」


 幼い頃の俺と晴朗。

 俺はマンションに住んでいて、晴朗はそのマンションの隣の団地に住んでいた。

 毎日のように公園で一緒に遊び、楽しい毎日だったのを覚えている。

 でも……。


「よぉ、平ちゃん」


「……晴ちゃん」


「さぁ、掛かってこいよ!」


 全ての景色が消え、俺の前には高校生になった晴朗が現れる。

 その手には拳銃が握られていた。


「死ねよ」


 そう言って晴郎が引き金を引く。

 しかし、銃弾は俺に当たらなかった。

 その理由は俺を庇って盾になった人がいたからだ。


「初白!!」


 盾になったのは初白だった。

 血を流して倒れる初白。

 それをニヤニヤしなはら見つめる晴朗。

 そんな光景を見た瞬間、どうしようもない怒りが俺を襲った。


「晴朗!! てめぇぇぇぇ!!」


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