第266話

 強い。

 力もあるし、目もかなり良いようだ。

 昔とは違う。

 確かにその通りだ。

 

「っち……」


「どうした? そんなもんか?」


「………」


 晴郎が本気だとわかり、俺は覚悟を決めた。

 もう加減なんてしない。


「悪い……手加減なしで行くぞ行くぞ!!」


 俺は立ち上がり、晴郎に向かっていく。

 再び蹴りを入れようと飛び上がろうと身を屈める。


「また蹴りか! 学習しろよ!」


「それはどうかな……ふん!」


「なに!?」


 俺はそのまま身を屈めて晴郎の懐に入り、顎めがけて拳を振り上げる。

 

「うぐっ!!」


 晴郎はそのまま後ろに倒れる。

 やり返しはしたが、あまり手応えはない。

 すぐに晴郎は起き上がり、俺の方に向き直る。

 

「今のはなかなかだったな」


「それはありがとうよ!!」


 話終わると同時に俺は再び晴郎に向かっていく。

 蹴り、拳を交互に振るって晴郎にダメージを与えようとするが、晴郎は俺の攻撃をすべて受け流していく。


「くっ!」


「やっぱり、強いなぁ……動画でも見たけどそこらのチンピラじゃぁお前にはかなわないだろうな。まぁだけど俺よりは弱いな」


「そうかよ……」


 実際手合わせをしてそれはわかり初めていた。

 俺はもう息が上がりはじめている。

 なのに晴郎は息一つ上がっていなかった。


「あっちの方も随分苦戦してんな」


「悟、大島……」


 後ろを見ると一緒に来た悟や大島も不良達に囲まれていた。

 協力してなんとか不良たちを倒してはいるが、やはり数は向こうの方が多い。

 早くこっちを片付けて手伝ったやりたいが、それも難しい。

 正直晴郎に俺が勝てるのかさえもわからない。

 

「さぁて、続きをしようか?」


「……そうだな」


 勝てるのだろうか?

 俺はそんなことを考えながら、晴郎に向かっていた。

 迷いもあった。

 幼い頃の友人とこんな形で戦いたくはなかった。


「おらっ!」


「くっ!」


 俺と晴郎の戦いは続いた。

 押されているは明らかに俺だ。

 でも、ここで引くわけにはいかない。

 ここで引いたら俺を頼ってくれたらあいつらの思いを無駄にすることになる。


「うぉぉぉぉ!」


「なっ!」


 俺は無我夢中で晴郎に向かっていく。

 少しづつだが晴郎の体力も減っていた。

 後はどちらが先に力尽きるかの勝負だった。

 晴郎をやればこの戦いは終わる。

 そう思いながら、俺は一心不乱に攻撃を繰り返した。

 しかし……。


パーン!!


 そんな俺たちの戦いは一つの大きな音によって終わりを迎えた。


「なんの音……え……」


 音が鳴った瞬間、その場に居た全員が動きを止めた。

 そして、なぜかわからないが俺を見ていた。

 なんで俺を見ている?

 そんなことを考えていると、先ほどまで笑いながら戦っていた晴郎の顔が驚いた表情に変わっていた。

 そして、俺は脇腹の辺りになんだか熱い感覚を覚え、脇腹を見た。


「え……」


 俺の腹からは真っ赤な血が流れていた。

 それを見た瞬間、一気に体から力が抜けるのを感じた。


「なっ……」


 俺はそのままその場に倒れ込んだ。

 

「兄貴!!」


「島並さん!!」


 大島と悟が俺に大声でそう叫んだのが聞こえた。

 そうしてようやく俺は理解した。

 俺は誰かから撃たれ脇腹から出血をしているらしいと。


「おいおい、晴郎ちゃん何してんのぉ〜」


「……あんたこそ何をしてんだ? 佐崎(さざき)」


 晴郎は誰かと話を始めた。

 佐崎と呼ばれた男の声が近づいてくる。


「何って助けて上げたんだよぉ〜? なんか苦戦してたからねぇ〜」


 そしてその男はゆっくりと俺の視界に現れた。

 金髪のチャラチャラした感じのその男は、晴郎と同じ特攻服を着ていた。

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