第265話

「大河原……まさかな」


 ただの偶然だろう。

 そう思いながら俺は不良たちをなぎ倒し高弥の元に駆け付けた。


「高弥!」


「………」


 気を失っているようだった。

 後頭部からは出血の後があるが、どうやら頭を切っただけらしい。

 しかし、何をされているか分からない。

 見ると腕や足に痣もあった。

 俺は親友の痛い痛しい姿を見て拳を握り、眼の前の現ノーネームのボスを見る。


「よぉ……お前がサル山の大将か?」


「だったらなんだよ……」


「こいつをやったのもお前か?」


「あぁ、馬鹿な奴だよ、一人で来て勝手にタイマンだって誤解してこのざまだ」


 高弥は強い。

 それも木刀を使えば俺以上に強い。

 そんな高弥がこんな奴に負けるわけがない。

 俺はそんな事を考えながら怒りで頭がいっぱいになった。

 こんな奴が高弥を……そう考えると俺は今すぐにこいつを殴り飛ばしたい衝動にかられた。

 しかし、なぜだろうか。

 この男からは何か懐かしさを感じ、俺は直ぐに身体が動かなかった。

 

「……しばらく見ない間に随分たくましくなったな……平ちゃん」


「な、なんでそのあだ名を……お前……」


 あだ名を呼ばれ、俺は確信してしまった。

 俺を平ちゃんと呼ぶのは今にも昔にも一人しかいない。

 最後に合ったのはまだ5歳の頃だった。

 お互いに顔つきも変わり、すぐわからなかったのは無理もない。

 しかし……なんでこいつは……晴(せい)ちゃんは直ぐに俺だと気が付いたのだろう?



「……どうが見たぜ、随分カッコ良くなったな」


「晴ちゃん……なんで……」


「もう何年経ってると思ってんだよ? もうガキじゃねぇんだ……」


 子供の頃に比べて体格は良くなり、顔つきも大人になっていた晴ちゃんは何処か寂しそうな表情で俺にそう話す。

 高弥をやったのが晴ちゃんだなんて信じたくない。

 しかし、現実はそうなのだ。


「晴ちゃん……なんでこんな……昔はこんな事をするような奴じゃ……」


「なんども言ったろ? 変わったんだよ……この10年で。お前もそうだろ? それに俺達は幼い頃から壮絶な過去を経験してる。急に性格が変わったって不思議じゃないだろ」


「……でも! 晴ちゃんは言ってただろ!! 人を殺すような人を一人でも無くせるように警察官になるって!」


「警官? あぁ、あんな税金泥棒なんかになるのはやめたよ、警察じゃ俺のやりたいことは出来ない」


「そんな……」


「平斗、もう晴ちゃんって呼ぶのやめろ……俺達は今、敵同士だ。お前のダチをやったのは俺だ、さっさと来いよ」


「……晴郎……」


 悲しい再会になってしまった。

 まさか喧嘩の相手として再会することになるなんて……。


「出来ることなら……戦いたくない」


「そうか? 俺はやる気満々だぜ……いくぞっ!!」


「うっ!」


 急に晴郎からの蹴りが俺の頬目掛けて飛んでくる。

 俺が両腕でガードし距離を取る。


「どうした? お前も来いよ」


「………わかったよ」


 やるしかない。

 晴郎の目を見て俺はそう思った。

 晴郎の言う通りだ、眼の前にいるのは昔の晴郎ではない。

 今は俺が倒すべき敵だ。

 高弥をこんな目に合わせた憎むべき相手だ。

 

「行くぞ」


「あぁ、来いよ」


 俺は気合を入れなおし、晴郎に向かって構える。


「晴郎、俺が買ったらノーネームの総長を下りて貰う。そして、お前が引き抜いてきた奴らも全員クビ、活動もやめてもらう」


「はいそうですか、なんて言うと思ったか? ごちゃごちゃいうのはやめて、さっさとしろうぜ!!」


「……あぁ」


 俺は右足に力を入れ、晴郎の方に駆け出し、左足を蹴り上げ晴郎の頭を狙った。

 しかし……。


「おっと」


「なっ……」


 俺の足は簡単に晴郎に止められ掴まれた。


「おらよっ!!」


「うぉっ!」


 俺はそのまま投げ飛ばされ、地面に倒れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る