第261話
「どうぞ」
「あぁ……随分刺繍が細かいんだな」
「はい、貴方が協力していただけると言われた日に俺が入れました」
「え? そうなのか?」
「一時的とはいえ仲間になるんです。同じ物を準備したくて」
俺は特攻服を受け取った。
その特攻服は先ほどまでの俺の考えを覆すくらい重く感じた。
白色の特攻服の袖には金色の刺繍が施され、背中にはチーム名の「無名(ノーネーム)」が刻まれていた。
恐らく一心達の守りたい場所にはこの特攻服も必要不可欠なのだろう。
「大事に着る」
「島並さん……」
俺がそう言うと一心は手を膝について頭を下げた。
「よろしくお願いします」
震える声で肩をワナワナと震わせながら一心はそう言った。
「任せろよ」
恐らく今日あった不良達の中で一番チームを取り戻したいと願っているのは一心なのかもしれない。
でなければ、ほとんど知らない相手に涙を流して頼み事なんて出来るはずない。
それもプライドの高い不良が……。
俺はそんな一心を見て絶対にチームを取り戻してやろうと思ってしまった。
*
「集会は明後日?」
「はいっす! 前総長派閥にも動きがあって、そいつらも明後日にチームを襲撃するらしいです」
「でも、前総長派閥だってもう6人くらいしか……どうやってあんな大きなチームと……」
病院を後にし僕はノーネームの情報を左山と右川から集めていた。
潰すなら早い方が良い。
そう思った俺は明後日にノーネームの集会が廃工場であると聞き、そこを狙おうと考えていた。
他の連中もくるのであれば好都合だ。
恐らく総長の首さえ取れば直ぐに戦いは終わる。
「ありがとう、君たちは倉敷さんについててあげて、まだ外は危険だし彼女は狙われてるから」
「はいっす……ほ、本当に一人で行くんですか?」
「あぁ……倉敷さんのお兄さんを見たらなんだかね……」
実際はお兄さんの姿を見ている倉敷さんを見て直ぐにこの件を片付けようと思ったのだが、余計な事は言わなくても良いだろう。
あの悲しそうな表情を見せられたら、誰だって彼女の見方をしたくなる。
「な、なら俺達も連れて行って下さい!」
「盾くらいにはなれます! それにアンタには恩もある!」
「ごめんね、気持ちは嬉しいけど……君たちじゃ足手まといだよ」
「でも!!」
「僕は言ったよね? 彼女を守って上げて……それが出来るのは君たちだけだから」
「……分かりましたっす」
そう言うと二人は不服そうだったが納得した。
明後日であれば平斗もまだ情報を掴む前だろう。
今回は僕一人でなんとかしよう、これ以上平斗を危険な目に合わせるわけにはいかない。
「平斗には感づかれないようにしないとな……」
そんな事を考えながら僕は明後日の準備を始めることにした。
*
島並家に俺が来たのはまだ7歳の頃だった。
両親と兄を失い、俺は子供ながらに大きなショックを受け、心に深い傷を負った。
住み慣れた土地を離れて俺は島並家に来たので、幼い頃の友人とは疎遠になってしまった。
「へいと! 早くいくぞ!!」
「まってよ! 晴朗(せいろう)くん!!」
大河原晴朗(おおかわら せいろう)は幼い頃に一番仲の良い友人だった。
良く二人で公園で遊び、暗くなるまで遊んで親に良く叱られたのを今でも覚えている。
彼が今何をしているのか知らない。
家族を無くし、それどころでは無かったからだ。
だが、今でも時々思う。
あのまま家族が生きていて、そのままあの町で成長していたら、俺は晴朗と共に成長し、今も一緒に遊んでいたのだろうかと、そうだったとしたら俺の人生はどんなものになっていたのだろうかと……。
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