第260話



「流石喧嘩に明け暮れてただけあって、多少はやるな」


「そんなことありませんよ、貴方に比べたら俺は全然です」


 一心は他の不良たちとは違った。

 攻撃の鋭さや素早さ、そして身のこなしの軽さがあいまって簡単に倒せるような相手では無いと直ぐに分かった。

 恐らく何度も喧嘩を繰り返して実践で技を身に着けたのかもしれない。

 全員の実力を図り終え、俺は考えていた。

 下手に怪我をさせるくらいなら、一心以外の奴らを置いて行った方がやりやすいのかもしれない。

 しかし、こいつらにそんな事を言っても無駄だろう。

 恐らくこいつらは無理にでもついてくるだろうし……しかし、それだとこいつらを人質に取られかねない……。

 俺でも人質を取られたら戦いにくい。

 だが……。


「島並さん、いつ乗り込みますか?」


「俺達このまま黙って見てるなんて、もう嫌なんです!」


「出来れば早くあいつらを止めたいんです!」


「………わかったよ」


 何かの為に戦う奴は強い。

 それは俺が良く知ってる。

 心配はいらないかもしれないな。

 だが、この人数では流石に心配だ。


「分かった。じゃぁ俺も準備をする、奴らのたまり場はもう分かってるのか?」


「はい、調べは付いています」


 一心はそう言いながらスマホのマップアプリを開き俺に見せてくる。

 

「廃工場か……」


「はい、集会は週一回で明後日がその集会の日です」


「乗り込むのは明後日がベストか……分かった、それじゃあ明後日乗り込むぞ」


「「「「はい!!」」」」


「それと二人、助っ人を呼んでも良いか?」


「助っ人ですか?」


「あぁ、正直頼りないが……俺の弟分でな、実践経験を踏ませてやりたいんだ」


「人数が多くなるのは助かります、もちろん歓迎します」


「悪いな」


 それから少し打ち合わせをした後、俺は一心に送って貰って自宅に帰った。

 バイクの後ろに乗っていると一心がふと俺に話し掛けてきた。


「ありがとうございます。引き受けてくれて……感謝してます」


「まだチームを潰してないだろ? 礼を言うのは早いぞ」


「でも感謝してるんです。見ず知らずの俺達の為に力になって貰えるだけで……」


「……大事な居場所なんだろ? あいつらにとっても、お前にとっても」


「はい………だから取り戻したいんです」


 気持ちは良く分かる。

 大事な場所を他人に汚され、乗っ取られるなんて俺だって嫌だ。

 こいつらに協力したのは最初はあの薬について知る為だった。

 だけど……今日あいつらに会って話して分かった。

 あいつらはなんとしても自分の居場所を取り返したいんだと……。


「前総長の言う通りでした……貴方は良い人です」


「そいつと俺は面識がないんだが?」


「一方的に俺達が知ってるだけですよ、動画を見て前総長がチームに欲しいって言ってました。でも貴方は普通の学生、俺らのチームに引き込むのは迷惑だと、貴方の接触をやめたんです」


「前総長ってのは物分かりの良い奴なんだな」


 一歩間違ってたら俺って勧誘されてたのか……まぁ入る気なんて一切無いけど。

 そんなチームに入ったら竹内さんから殺されそうだし……。

 そんな話をしている間にバイクはとあるアパレルショップの前に止まった。


「ここは?」


「自分の自宅です。俺達ノーネームの特攻服を渡します」


「え? いや、俺は別にチームメンバーじゃねぇし……」


「いえ、貴方は一時的にでも俺達の仲間になります。組織に置いて大切なのは統制です。同じ特攻服を身にまとうだけでもそれは大きく違います」


「ま、まぁそうだが……」


 いや、特攻服ってあれだろ?

 なんか作業着見たいなやつだろ?

 昔なら大丈夫かもしれないけど、今の時代はコスプレに分類される可能性もあるんだよ、恥ずかしくてそんなの着たくねぇよ……。

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