第259話



 病院の集中治療室、そこでは一人の若い男性が顔に包帯を巻いて眠っていた。

 病室の名札には『倉敷 誠也(くらしき せいや)』と書かれている。

 

「もう何日も目を覚まさないのよ」


「……大丈夫なの?」


「分からないわ……医者も後は目が覚めるのを待つだけっていってたけど、目が覚めるのかも分からない」


 こんな時彼女になんて声を掛けたら良いのか僕は分からなかった。

 大丈夫だよなんて無責任な事を言うのも嫌だったし、何よりそれを言っても彼女が元気になるわけではない。

 

「全部……あいつのせいよ」


「現ノーネーム総長?」


「えぇ……このままじゃいけないのは分かってる、だから私は強くあり続けるのよ」


「そうはいっても君は女の子だ。力では男には勝てない」


「どうかしらね、アンタには負けたけど、他の奴には勝ててたわ……だから私が現総長を……」


「危険すぎる! やめた方が良い」


「じゃぁこのまま何もせずに指を加えて見てろって言いたいの!?」


「そうじゃない! 他に方法があるはずだ! 警察だって動いてる、君がどうこうする話しじゃない!」


「じゃぁその警察はいつになったらあいつらを捕まえてくれるのよ! 私はいつまで追われる生活をすれば良いのよ!」


「………ごめん」


 謝る事しかできなかった。

 確かにそうだ。

 一番怖いのは当事者である彼女なのだ。

 確証もないのに警察が動いてるなんて言うべきじゃなかった。


「ごめん……言い過ぎたわ……」


「いや、良いんだ」


 やっぱり似ている。

 こうやって一人で抱え込むところも、自分がやらなくちゃと思ってるところも……彼女は昔の平斗そっくりだ。


「君は似てるよ」


「誰によ……」


「僕の親友だよ、今日昇降口で合ったろ?」


「全然似てないと思うけど?」


「いや、そっくりさ……だから放って置けないんだ」


「………アンタとそいつに昔何があったのよ?」


「平斗も君と一緒さ、一人で全部抱え込んで苦しんだ。そんな平斗を見てるから、君を助けたいって思うんだよ」


「だからってアンタには関係無いでしょ……」


「そうかもね……でも、きっと平斗は君みたいな子を見捨てないから」


「………」


 そうだ。

 平斗はこういう時に絶対に見捨てたりしない。

 きっと自分から危険な道に進んで助けようとするはずだ。

 そんな平斗だから僕は尊敬したんだ。

 平斗のようになりたいと思ったんだ。

 だから僕も最後まで彼女の力になると決めた。

 例え見返りなんか無くても彼女を助ける。

 人が人を助けるのに理由はいらないと教えてくれたのは平斗だったから……。


「大将を潰せば、君は解放されるの?」


「まぁ、そうだけど……アンタまさかと思うけど、殴り込みに行こうなんて考えてないでしょうね!」


「さぁ、どうかな?」


「馬鹿な真似はやめなさい! 死ぬわよ!」


「でも、それで君がもう苦しまないなら……僕は行くよ」


「馬鹿じゃないの!? 私とアンタなんて他人なのよ! 昨日今日出会った関係じゃない! なのになんで私を助けようとするのよ!」


「さぁ? 僕にも分からないよ……」


 そう言って僕は一人で病院を出て行動を開始した。


「左山君と右川君だっけ?」


「はいっす!」


「どうかしましたか?」


 病院の外で待機していた二人に声を掛ける。

 いつノーネームの奴らが狙って来るか分からないので二人は倉敷を護衛に来ていた。


「ノーネームのアジトってどこ?」


「え?」


「いや、あの……それを知ってなにを?」


「もちろん、ぶっ潰しに行くんだよ」


「え!? いや、危険過ぎます!」


「そうですよ! それにいくらアンタでもノーネームって組織の前じゃ……」


「でも、僕が行かなかったら彼女が一人で行っちゃうよ?」


「そ、それは……」


「君たちも薄々分かってたからこうしてついて来てるんだろ? 護衛ついでに倉敷が一人で乗り込んで行かないよに……」


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