第248話

「たく、何がノーネームだよ......馬鹿な奴らも居たもんだ」


「先輩やめてくださいね、私また病院行くの嫌ですから」


「俺だってそんな奴らと揉めるのは嫌だよ」


 とは言いつつ少し気にはなっていた。

 ノーネームがどこからかあの薬を入手して仲間内で回しているのならば、知らんぷりという訳にもいかない。

 俺はあの薬に大きく関わってしまっていた。

 そんな事を考えていると俺の考えを見透かすかのように初白が俺の前に立ち怒ってくる。


「嘘言わないでください。その顔はまた面倒な事に関わろうとしている顔です!」


「それどんな顔だよ....んなわけねぇだろ、良いから帰るぞ」


「あ! ちょっと!!」


 平静を装いつつも内心では初白に言われてスマホで自分の顔を確認してしまった。

 まったくこいつはどんだけ俺に詳しくなってんだよ.....。


「遅くなっちまったから送ってやるよ」


「なんですか? 私と少しでも一緒にいたいんですか?」


「やっぱり送るのやめるわ」


 こいつは先輩の親切をなんだと思って嫌がる....。

 そう思いながら反対方向に帰ろうとすると初白が俺の制服をぎゅっと握ってくる。


「冗談ですよ.....怖いんで一緒に帰ってください」


「え?」


 まさかあの初白がこんな事を言うなんて、俺は一瞬耳を疑った。

 周りはもう真っ暗、初白の表情も辛うじてわかる程度だ。

 不安に感じるのも無理はない、夏前にあんな出来事があったんだ、トラウマになっているはずだ。

 

「悪い......一緒に帰ろうぜ」


「...........はい」


 俺は初白と一緒に初白の家まで歩き始めた。

 これから日が落ちるのは早くなる、なるべくは一緒に帰ってやるべきなのかもしれない。

 そんな事を考えていた。

 高弥がなぜ初白と一緒に帰れと言ったのかがわかった気がした。


「じゃぁ俺帰るわ」


「はい、送ってくれてありがとうございます」


「じゃぁまた明日な」


 初白の家に着き俺は玄関先で初白について別れを告げて帰ろうとした。

 しかし、ちょうどその時初白の家の玄関が開いた。


「あら蓮花おかえりなさい、そちらの方は?」


「あ、どうもはじめまして。娘さんの学校の一個上で島並と申します」


「え!? あ、もしかしてあの動画の!?」


 そう言われた瞬間俺は初白の方を睨んだ。

 こいつ親にまで見せやがったな……。


「ねぇねぇ、そうでしょ! そうでしょ!」


「え、えぇ……まぁ、はい……」


 初白母が一気に俺に詰め寄ってくる。

 いきなり凄いなこの人……。


「あ、良かったらご飯食べていかない? お父さんも島並君に会いたがってるのよぉ~」


「い、いやでも急にお邪魔でしょうし……」


「そんな事ないわ! なんたって何度も娘を助けてくれたんですもの! さぁさぁ! 入って入って!」


「え? いや……ですから……」


 俺はそのまま半ば強引に家の中に入れられた。

 初白の母親はなんというか年相応の綺麗な人だった。

 美人がそのまま老けた感じと言えば良いのだろうか?

 美魔女ってやつだろうか?

 俺はリビングのソファーに座らせられた。


「すいません……うちの母親が……」


「あぁ、いやそれはいいんだが……お前動画親に見せたのかよ……」


「し、仕方無かったんですよ! だって私被害者だったし!」


 初白を睨みながらそう言うと、初白は慌てた様子で俺にそう説明してきた。

 確かにそうだ。

 親なら娘に何があったのか心配だったろうし、あの動画を見せても不思議じゃないか……ってか、初白が見せなくても他の誰かが見せてたかもな。


「ただいまー」


「あ、お父さん」


「お邪魔しています」


 初白とそんな話しをしているとリビングのドアが開き、スーツ姿のおじさんがリビングに入って来た。

 恐らく初白の親父さんだろう。

 俺は立ち上がり挨拶をした。


「えっと……君は? も、もしかして!!」


「あぁ、自分は……」


「娘の彼氏か!?」


「え?」


 何を勘違いしているのだろうか。

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