246話 番外編 竹内という男

「なぁ、おい知ってるか? サークルクラッシャーの話し」


「あぁ、知ってる知ってる。新歓コンパでサークルが一人の男に潰されるって話しだろ?」


「それって今年の一年がやってるの?」


「らしいぜ、確か名前は……竹田だったかな?」


 大学に入って早一カ月。

 私、青山鈴香(あおやま すずか)は大学のカフェで三人の男性の話しに聞き耳を立てながら友達を待っていた。

 極々普通の大学に進学し、春から一人暮らしをしている私は大学で友達が出来るか心配だったけど、直ぐに友達が出来て安心していた。

 いまはバイトも決まり、後はサークル活動をどうするか考える日々だ。


「鈴香! お待たせ」


「ううん、全然待ってないよ」


 友人の名前は柊木冬霞(ひいらぎ ふゆか)、スタイルが良くて大人っぽい私の友達だ。

 家が近い事もあって私たちは直ぐに仲良くなり、今は一緒に大学生活を過ごしている。


「サークル決めた?」


「ううん、なんか何をしたら良いか分からなくて……」


「それなんだけどさ、私テニスサークルに高校の時の先輩がいてさ、来てみないか誘われてるんだけど一緒にどう?」


「え? テニス?」


「そう、確か鈴香も高校時代テニスサークルだよね? なんか皆良い人そうだし、女子も多いしどうかな?」


「うーん、確かにテニスならやってたし良いかも」


「じゃぁ、今夜新歓コンパがあるから参加だけして見ない? 結構一年生もくるっぽいし」


「わかった、今日はバイトもないし良いよ」


 私は軽いノリでテニスサークルの新歓コンパに参加することになった。

 来たのはオシャレな男性が数人と綺麗な女の人が数人。

 男性の方が人数は多かった気がする。


「へぇ~鈴香ちゃんテニスやってたんだ!」


「は、はい、中学からずっと」


「じゃぁ、俺らより上手いかもね、俺らテニサーだけど全然テニスしてないしな!」


「あはは、飲んでばっかりよねぇ~」


 飲み会に来た先輩は皆優しかった。

 一年生は私と冬霞、そして同じ一年生の竹内という人だった。

 

「ねぇ~竹内君すごく良いからだしてるね」


「そうっすか? ありがとうございます」


「モテるでしょ~? 顔もかなり良いし~やっぱり誘って正解だったなぁ~」


「いや、俺なんか誘って貰って嬉しかったですよ」


 爽やかな笑顔でそう答える竹内君。

 女性の先輩達は彼に夢中だった。

 しかし、竹内君は女性に馴れているのか扱いがすごく上手だった。

 酔っぱらっちゃったと先輩が言って肩に寄りかかろうとすると、すかさず座布団を枕にして女性の先輩を横にさせていた。

 いや、そうじゃないだろ……と言いたかったが言える訳もなかった。

 更に女性の先輩が身体を触ろうとするものなら、素早くその場から理由をつけて逃げていた。

 もしかしてあんまり免疫ない?

 そんな事を考えながらジュースを飲んでいると竹内君が私の隣に来た。


「あ、竹内君だっけ? 私同じ一年の青山鈴香。よろしくね」


「あぁ、よろしく。なんだか凄いノリのサークルだな」


「そうだね、でも皆良い人だよね?」


 そう私が言うといきなり竹内君は私に顔を近付けてきた。


「え……」


 顔に迫る綺麗なイケメンの顔。

 私は思わず緊張して顔が暑くなるのを感じた。

 そして竹内君は私に小声でこういった。


「二次会には絶対行くな」


「え……」


 なんの事か分からずきょとんとしていると竹内君は立ち上がって別な席に行ってしまった。

 一体なんだったんだろ?

 二次会に行くなってどういうこと?

 なんて事を考えている間に飲み会はお開きになった。

 竹内君と一部の先輩女性は早々に帰って行ったけど、男性の先輩と数人の女性の先輩が二次会をすると言い出した。


「鈴香ちゃんと冬霞ちゃんも来なよ! 今度は俺のマンションでするからお酒一緒に飲もう!」


「え……でも」


「私行きたいでーす! 鈴香も行くでしょ?」


「え……ふ、冬霞が行くなら……」


「よし! じゃぁ決まり! いこうぜ~」


 二次会の場所になった先輩の家はかなり良いマンションの一室だった。

 親が金持ちらしく、普通の大学生が住むには大きすぎるマンションに住んでいた。

 私たちはその部屋で二次会を始めた。

 お酒を進められ私たちも調子に乗ってお酒を飲んだ。

 そして、私は良い感じに酔っぱらってしまった。

 そして少ししてからだった……先輩達が豹変したのは……。


「ん……ふあぁ~」


 酔っぱらって少し寝てしまった私が目を覚ますと眼の前には上半身裸の男性の先輩が居た。


「え!? な、何ですか!!」


「あ、起きた」


「だから言ったろ? もっと飲ませて置けって」


 他の先輩も服を脱いでおり、なんと眠っている冬霞の服を脱がそうとしていた。

 女性の先輩はニヤニヤしながらその様子をスマホのカメラで撮影していた。


「な、何するんですか!」


「何って、わかるでしょ? 子供じゃないんだし」


「このサークルって表向きはテニサーだけど本当はこう言うサークルなのよねぇ~」


 私は一気に酔いが冷めた。

 それと同時に竹内君のあの言葉を思い出した。


『二次会には絶対行くな』


 あぁ、そう言うことだったんだ。

 竹内君は私を心配して忠告してくれたんだ。

 でももう遅い。


「いや! やめて下さい!」


「良いじゃんか~一緒に気持ち良くなろうよぉ~」


「そうそう、てかもしかして鈴香ちゃん始めて?」


「うぉ! マジかよ、興奮するわ~」


 どんどん服を脱がされていく私。

 冬霞は既に下着だけにされ、目を覚まして私同様に抵抗していた。


「もう、大丈夫よ痛いのなんて最初だけだから」


「諦めた方がいいわよぉ~」


 女性の先輩もニヤニヤしながらそんな事を言っている。

 怖い……男性の腕が怖い、触られたくない、気持ち悪い。

 そんな感情が私の中に溢れていて、気が付くと私は涙を流していた。


「あぁ~泣いちゃったよぉ~」


「お前がさっさとやんねーから」


「大丈夫大丈夫、直ぐに気持ちよくしてやるから」


 先輩達の手が私のパンツにかかる。

 もうだめだ。

 そう思った時、部屋のインターホンが鳴った。

 

「っち、なんだよこの一番良い時に」


「こんな時間に客か?」


「無視無視、さっさと続きを……」


 そう先輩が言いかけた瞬間、玄関先からとてつもなく大きな音が聞こえてきた。

 なんだなんだと家主の先輩が玄関を身に行った、そして……。


「お、お前なん……ぶはっ!!」


 先輩の驚く声が聞こえ、その後に先輩を引き釣りながら笑顔を浮かべて竹内君が入ってきた。

 そしてスマホのカメラでポカンとしていたその場の様子を撮影する。


「せんぱ~い、なに年下の子を集団でレイプしようとしてんすか? モテないんですか? それとも欲求不満なんすか? まぁ、どっちでも良いけど」


 竹内君はそう言いながら引きづっていた先輩を放り投げた。


「て、てめぇ! 何しやがった!!」


「何しやがった? それはコッチが聞きたいっすよ……なんでその子達泣いてんすか? しかも下着姿で……」


「てめぇに関係ねぇだろ! やっちまえ!!」


「一年が調子こいてんじゃあがっ!!」


 竹内君に向かって行く先輩達。

 しかし、竹内君はそんな先輩達を一撃でノックアウトしていた。


「な、なんなんだお前……」


「ひっ! こ、こないで!!」


 女性の先輩達も完全にビビっていた。

 それもそうだ。

 竹内君からは何か恐ろしいオーラを感じた。

 彼がいるだけどでその場の空気が重く、動いたら殺される気がして動けなかった。


「普通に犯罪なんで通報しましたよ? アンタらうちの大学で有名なヤリサーの主犯だな? 合意も得ないで半分レイプみたいな真似してたんすよね?」


 笑顔でそう言う竹内君。

 しかし、目は全然笑ってなくて、男性の先輩たちを殴って気絶させながら、部屋から部屋から羽織る物を適当に持ってきて私と冬霞に掛けてくれた。

 そして優しい笑顔でこういった。


「怖かったろ? もう大丈夫だから泣くな」


 その瞬間、私は安心感で涙を流し冬霞と抱き合っていた。

 冬霞は「ごめんねごめんね」と私に謝っていた。

 しばらくして警察が来て事情聴取を受けた。

 女性の先輩が撮影していた動画が決め手になり、その場にいた先輩達は全員逮捕された。

 不思議な事に竹内くんは警察の人とかなり親しいようで敬礼までされていた。

 彼は一体何もなのだろう?


「なぁ、聞いたか? またサークルが潰されたって」


「あぁ! てか、なんでもそのサークル全部犯罪に手を染めてたサークルなんだろ?」


「らしいぜ、薬物の売買やってたサークルに昨日のテニサーは新人の女の子にレイプまがいの事をしてたらしい」


「じゃぁそのサークルクラッシャーってヒーローじゃん」


 あれから数日、私は若干のトラウマが植え付けられたけど今日も元気に大学に通っている。

 これも竹内君のおかげだ。

 冬霞は先輩とは縁を切ったらしい。

 あそこで竹内君が来なかったらと思うと私は今でも身震いしてしまう。

 でも、一つ問題があった……。


「よ、青山」


「あ……た、竹内君……」


「この前の事気にするなよ? 何かあったら言えよな? すぐまた助けにいくからよ」


「う、うん……」


 私はあの出来事のせいでとんでもない病気に掛かってしまった。

 それは現代の医学でも直すことが出来ない病だ。

 しかもこんなセリフを何も考えないでいうのがまた迷惑な話しだ。

 あんな風に助けて貰ってこんな事を爽やかな笑顔で言われたら、誰だって彼を……好きになってしまう。


「あ、竹内君!」


「ん? おう柊木かお前も大丈夫か? あんまり気にするなよ?」


「ううん、怖くて今日も一人じゃ帰れないから今日も一緒に帰って」


「そうか……まぁ、あんな事をされたらそうだよな? じゃぁ今日も一緒に……」


「ちょっと冬霞! あんた昨日普通に夜中にコンビニ行ってたじゃない! 一人で帰れるでしょ!」


「そんなの無理よぉ……ねぇ、竹内君お願い……なんなら泊って」


「いや、泊るのは無理だ、稽古がある」


 冬霞が今までに見た事ないくらいに女を表に出して竹内君を取りにきていた。

 厄介なことにこの病に掛かったのは私だけではなかったようだ。 

 今でも冬霞とは仲良しだ。

 でも、竹内君の事だけは譲れない。


「わ、私も怖いから一緒に帰る!」


「ん? じゃぁ二人で一緒に帰れば良いんじゃないか? 何かあってもどっちかが助けをよべば……」


「「それはダメ!!」」


「なぜだ……」


 私の大学生活は始まったばかりだ。

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