第235話



 夏休みが終わった。

 今日から学校だからか知らないが、なんだか登校する生徒達に覇気がない。

 まぁ、気持ちは分かる。

 夏休みが終わって直ぐにあるのが文化祭だ。

 去年は完全に居ない人扱いで楽だったが、今回はそう言う訳にもいかない。


「だるいなぁ……」


「おはよう平斗」


「おぉ、腕大丈夫か?」


「問題ないよ、打撲程度だしね」


 高弥が教室にやってきて真っすぐに俺に話し掛けてきた。

 この前の戦いがまるで嘘のようにいつもの日常が進んでいく。

 

「光音ちゃんにはあった?」


「いや、会ってない。今回の事も光音には内緒にしてるからな」


「まぁ、そうだよね、あの子は自分のせいで平斗が危険な目にあったなんて知ったら、酷く悲しむだろうからね」


「優しい奴だからな……」


 始業式に宿題の提出、そしてテストの説明をされその日の学校は終わった。

 明日からは通常通りの授業だが、今日は半日で終わりだ。

 それに文化祭の準備も始まるから大変だ。


「な、なぁ島並……」


「ん? なんだ?」


 帰ろうとする俺に話し掛けてきたのはクラスのイケてる男子だった。

 俺と違ってクラスの中心グループにおり、女子からもモテる。

 そんな奴が一体俺に何のようなのだろうか?


「じ、実はさ……お前に会いたいって人がいるんだけど……今から時間あるか?」


「俺に? まぁ良いけど……」


「わ、悪いな……こ、こっちだ」


 俺はなんだか嫌な予感がした。

 いつもは明るく誰にでも明るく声を掛けるこいつの表情はなんだか暗い。

 それにどこかうわの空って感じだ。


「こ、ここだ」


「体育館裏か……なぁ、もしかしてたけど俺に会いたいのって……」


「俺達だよ」


 そう言って物陰からぞろぞろと我が校が誇る悪ガキと他所の学校の悪ガキが集まってきた。


「ご苦労だったな、篠山(ささやま)」


「や、約束は果たしたんだ、樋和(ひより)には手を出すな……」


「あぁ、もちろん手は出さないさ……」


 なるほど、どうやらこの篠山君は樋和ちゃっとか言うガールフレンドを人質に取られて、俺をここまで連れてくるように言われたみたいだな。

 てか、女を人質に取るような男が何もしないわけもねぇよな?


「おい、篠山とか言ったか?」


「悪いけど……俺にはこうするしか無かったんだ!! 恨むなら恨んでくれて……」


「ちげーよ、彼女って何組?」


「え?」


 俺はスマホを操作し高弥に電話を掛ける。


『もしもし? どうしたの?』


「あぁ、実は……おい、何組だ? それと苗字」


「え……えっと……2年3組の牧島樋和(まきしま ひより)だけど……」


「あぁ、お前まだ学校か? 居たら牧島樋和っていう3組の女の子を保護してやってくれ」


『全く、君はまた厄介事に首を突っ込んでいるのかい?』


「好きでしてんじゃねぇよ」


『はいはい、了解したよ』


「こいつら片付けたらまた連絡するわ」


『はいよ』


 そう言って俺はスマホをポケットに仕舞い、今度は眼の前に大勢いる悪ガキ達に言った。


「予想はつくけど、俺に何の用?」


「動画みたぜ」


「あの程度でちやほやされて浮かれてるみてーだからよぉー」


「ちょっと、実力を確かめにきたんだよ」


「だろうな」


 まさかまだ動画の事を言う奴がいたなんてなぁ……。

 しかもこんな馬鹿共まで現れやがった。


「あぁ、そう言う事? じゃぁ、早く買えりたいからとっと掛かって来い」


「あんだとぉ!?」


「舐めやがって!!」


「テメェら! やっちまえ!!」


「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」


 最近ヤクザを相手にしていただろうか?

 学校の不良が随分弱く感じた。

 ものの数分で掛かって来た不良達は地面に倒れて動かなくなり、威勢の良かった口からは懺悔の声が聞こえる。


「うぅ……つ、強い……」


「ば、化け物……」


「これで終わりかよ……だっせぇ」


 俺はそう言いながら棒立ちで見ていた篠山に近付く。


「い、一体何が……」


「見てたろお前? それよりも……」


「ひっ! そ、そうだよな……元は言えば俺のせいだし……さ、さぁ! 殴ってくれ!!」


「あ? なんでお前を殴るんだよ? 彼女を迎えにいくぞ」


「え……で、でも俺は島並を……」


「彼女のためだったんだろ? なんでこの学校の奴らは付き合う友達を選ばないんだろうねぇ~。ほらいくぞ」


 俺は篠山を連れながら、高弥に電話を掛けた。

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