第234話
*
薄暗い裏路地。
佐久間はボロボロの身体を引きづって歩いていた。
「はぁ……はぁ……」
「佐久間」
「あん? あぁ、なんだお前か」
佐久間を呼んだのはスーツ姿の眼鏡の男だった。
「しくじったのか?」
「別にしくじったわけじゃねぇよ、あの親父からはもう取るもん取ったしな」
「まだまだむしり取れたと思うが?」
「仕方ねーだろ、邪魔が入っちまったんだ。それに薬の効果も検証出来たんだから上出来だろ?」
「それを決めるのはお前じゃない、会長だ」
「同じ事を言うだろうぜ? 俺は他の稼げてない奴とは違うからな」
「そうか……ならそう言いながら死ね」
「え……」
大きな銃声が路地裏に鳴り響いた。
スーツの男は銃を仕舞い、路地裏を後にした。
「全く……薬を投与した遺体をそのままにしてきやがって……」
スーツの男がポケットからスマホを取り出し電話をかけ始める。
「もしもし? 会長ですか、終わりました。えぇ……佐久間の始末も滞りなく、遺体の方は残念ながら……はい、それじゃあ戻ります」
スーツの男はそのまま街の中に消えて行った。
そして、そんなスーツの男を影から見ている男が一人。
「へぇ……平気で仲間殺すじゃん」
その男は先ほど柳の屋敷で平斗に降参し、地面に倒れていた園田だった。
「これだからヤクザってのは嫌なんだよ……まぁ、俺もそうだけど」
園田はポケットからスマホを取り出し電話を駆ける。
「もしもし? あぁ、俺だよ園田だ。直ぐに人を回してくれ、組長にはもう話してある。潜入は大成功だったよ、結構得た情報も多い、終わったら組に戻って報告するよ。俺達大板組に喧嘩を売ったんだ、どうなるか思い知らせてやろうぜ」
そう言いながら園田は笑みを浮かべる。
*
家に帰ると父さんと母さんに怒られた。
理由はどうであろうと子供の出る幕ではなかったと激しく怒られたが、竹内さんの鉄拳制裁によりそこまで長々お説教はされなかった。
そして、光音の父親が俺にお礼を言いにやって来た。
「今回は本当になんとお礼を言って良いか……」
「いや、別に俺が勝手にやったことなので、それよりも柳を守れず……」
「君のせいじゃない……悪いのは私だ、もっと早くお兄さんと話をしていれば良かったんだ」
「遺体の損傷は?」
「あぁ、薬のせいか肌が変色していたよ、これ以上その薬の被害者が増えないように成分の分析の為に遺体が回されることになったよ」
「……俺が止められていれば」
「いや、君は十分よくやってくれたよ、その証拠にお兄さんの顔はなんだか安らかだった」
そんな事を言われてもどうしても気になってしまう。
眼の前で人が死ぬ事に俺は馴れていない。
「また娘に会いにきてくれ、君を気にいっているようだから」
「はい、そうします」
「それとこれは私からの今回の件に関する気持ちだ、受け取ってくれ」
「い、いやこんな大金受け取れませんって!」
大金を押し付けられた時は途惑ったけど、なんとか持って帰ってくれて良かった。
夏休みの今日で最終日。
明日からは二学期だなんて本当に憂鬱だ。
「せめて今日くらいはゆっくり過ごそう……」
そう思っていたのだが……。
「先輩! 宿題終わりません! 助けてくださ~い!」
「……なんでナチュラルに俺の部屋に入って来てんだ」
「え? あぁ、先輩のお母さんが入って良いよって」
「ノックくらいしろ! 俺の部屋だぞ!」
うるさいのが一人勝手に家に来てしまった。
「だってぇ~! って、なんか先輩怪我してません? どうしたんですか?」
「別に……ちょっと稽古でな」
「あぁ~またあの竹内って人に負けたんですねぇ~ぷぷ~本当に弱いんですからぁ~」
「帰れ」
そう言って俺は初白を外に放り出した。
「あぁ! ごめんなさい! 謝りますから入れてくださぁ~い!!」
「知るか!」
なんで俺、決着をつけに行く前にこんなやつにあんな事を言って罪悪感感じてたんだ?
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