第232話


「ぬぁぁぁ!!」


「うぉっ!」


「うっ!!」


 柳に吹き飛ばされ、俺と高弥は体制を立て直し再び柳の方を向く。

 まだパワーはあるとしても確実にダメージは入っている。

 このまま攻撃を続ければそのうち柳の体力が無くなる。

 

「くそっ! おっさんの癖に変に体力があるな」


「薬の影響だろう。でも効果も切れてきたみたいだ、このまま一気に行こう」


「あぁ!」


 俺と高弥はその後も柳に攻撃を与え続けた。

 手、足、腹、交互に攻撃を与えていき、柳はドンドン動きが鈍くなっていった。


「う、うぅ……」


「柳! もうやめろ、大人しくしてろ!」


 攻撃を加え柳はどんどん疲弊し、薬のせいなのか身体は黒く変色していた。

 このままでは死んでしまうのではないか?

 早く病院で治療を受けなければ柳が死んでしまうと思い、俺は柳にもう戦うのをやめるように説得した。

 しかし、柳は俺の話を一切聞き入れなかった。


「お前たちに何が分かる! もう私は引き返せない!」


「平斗、もうダメだ。言ってきく相手じゃない!」


「……そうだけど」


「父さんに連絡した。警察が来るまで柳を抑えよう」


「……わかったよ」


 しかし、抑える必要もなかった。

 柳はどんどん動きが鈍くなり、最後は全く動けなくなっていた。

 最初に出会った頃よりも見た目は色黒くなり、明らかに身体に異常をきたしているのが目に見えてわかった。

 だが、そうなっても柳は俺達に向かってこようとした。


「妹の……柳家の……未来が……」


「お前……」


 やり方は間違ったのかもしれない。

 でもこの柳健三という男は大切な物を奪われたと勘違いし、その怒りを誰かにぶつけることで生きてきた。

 光音の父親が警察沙汰にしなかった理由は柳が勘違いをしている事を知っていたから、なんとか身内の間で事を収めたかったからだ。

 そうしない前の奥さんに申し訳が立たないと思ったのだろう。

 しかし、柳は道を踏み外した。

 裏の人間と取引をし、違法な薬物まで使った。

 だが、俺にとってはそんなことどうでも良い。

 大切な友達がこの男に危害を加えられようとしていた。

 だから俺はここに来た。

 光音に安心して生活して欲しいから……。


「柳、悪いけどお前には法の裁きを受けてもらう……」


「そんな……こと……は……しない……捕まるなら……死んで……やる……」


「死んでどうするんだ?」


「………」


「お前、あの世に行って妹さんに顔向け出来るのかよ、折角妹さんのおかげで今まで生きて来れたのに……」


「……あぁ……あぁ……う……うわぁぁぁぁぁぁ」


 柳は泣き崩れた。

 こいつに死ぬことは許されない。

 妹うさんはまだこいつの身体で生きている。

 だから、生きて罪を償って貰わなければいけない。

 柳はようやく諦めたのか、そのまま動かなくなった。

 

「……私は長年……間違え続けた……」


「そうだな……でももうその間違えも終わりだ。檻の中でしっかり反省しろ、そんで……光音に謝れ」


「………」


 柳は無言でうなずき、どこかスッキリした様子で気を失った。

 まるで何かかから解放されたように……。


「終わったね」


「あぁ……こいつのやったことは許されることじゃない。でも、罪を償うことは出来るよな?」


「あぁ、もちろんだよ」


 俺も高弥も疲れ切り、その場に座り込んでしまった。

 警察もあと少しで到着する。

 そうすれば一件落着……。


ドーン!


「なんだ!!」


「銃声!?」


 安心しきっていた俺達の耳に大きな銃声が聞こえてきた。

 銃声がした方を向くと、そこには先ほどまで倒れたいた佐久間が立ち上がり柳に向かって銃を構えていた。


「おまえ! 何を!!」


「へ、へへ……このジジイもここまでか……じゃぁなガキ共、その顔絶対に忘れねぇぜ」


「まて!!」


 佐久間はそう言い残して逃げて行った。

 もう既に体力の限界だった俺は佐久間を追う事が出来ない。

 しかし、そんな事よりも……。


「柳!!」


 柳が胸を撃たれてしまった。

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