第226話

 ドアを開けて中に居たのはやはり二人だった。

 一人は50代後半くらいの男性。

 もう一人はがたいの良い30代くらいの男性。

 

「まさか、本当に学生とは……」


 50代後半くらいの男性が表情を変えずにそう言った。

 恐らくだがこの男が柳健三だ。

 和服姿で貫禄があり、ただこちらを見ているだけなのに迫力があった。


「アンタが柳健三か?」


「口に聞き方はなっていないようだな、目上の人に対する言葉遣いがあるだろ?」


「何度も殺され掛けた相手になんで敬語なんて使う必要がある? 敬う必要なんてお前にはない」


 そう言うと柳は不気味な笑みを浮かべて座布団の上に座った。


「さて、それならそれで構わないが私に何の用だ? 約束も無しにいきなり来て屋敷で暴れたんだ、それくらい聞かせて欲しいものだね」


「白々しいな」


 こいつは俺達が来ることを最初から知っていた。

 だからこそ、あれだけのヤクザを屋敷に置いていたのだろう。

 正直、今までの罪をあっさり認めて警察に出頭でもしてくれれば一番楽なんだが……。


「光音に手を出すな」


「……何の話しかな?」


「とぼけんな、何度も光音を狙っただろうが。アンタが恨んでるのは光音の親父さんだろ」


「なるほど……全て理解してここに来たのか」


「あぁ、俺の親友は情報集めが得意なんでね。出来れば罪を認めて自首してくれるのが一番嬉しいんだけど」


「ここまでしたんだ、今更引けないことは君のような子供にも分かるだろう?」


 高柳家で光音の親父さんから聞いた話しだと、柳が裏の人間と関わり始めたのは最近だ。

 恐らく柳は捕まる覚悟で光音の親父さんに復讐をしようとしている。

 だからあんなに無茶な事をしたのだろう。

 今ここでもし、全ての罪を認め自首すれば柳は危ない橋を渡った挙句に復讐も出来ず、無意味なままに犯罪に手を染めたことになる。

 それだけは避けたいはずだ。

 だから、絶対に柳は自首なんてしない。

 俺は話しているうちにそれが分かってしまった。


「じゃぁ、どうする? 俺もこいつもアンタの悪行の数々を知ってるし、警察に言って調べても貰えばアンタは直ぐに檻の中だ」


「無意味な脅しだ、ここに来た時点で君たちの運命は決まっているよ。佐久間」


「あいよ」


「手加減はいらない、殺して構わない。頼むぞ」


「分かってますよ、なるべく早くかたずけますのでお待ちを」


 柳が佐久間(さくま)と呼んだその男は一見すると普通の男性のようだった。

 しかし、目を見ていればわかる。

 この男は今までの奴らとは違う。

 

「残念だが君たちはここに来た時点で死ぬ運命だ」


「随分強そうなボディーガードですね」


「あぁ、強いさ。君たちよりも遥かにね」


 柳はそう話しながら立ち上がり、奥の部屋に引っ込んでいった。

 残された俺と高弥が後を追おうとするが佐久間が俺たちの行く手を塞ぐ。


「お前らの相手は俺がする。まぁ、相手になればだがな」


「……あんた、ヤクザか? 勉強の為に教えてくれよなんて組なんだ?」


「それを知ってどうする、お前らは今から死ぬんだ。別に知る必要はない」


「そうか……なら、倒して力ずくで聞きだすさ」


「平斗、こいつ相当強いよ」


「分かってる」


 服を来ていてもわかる分厚い胸板に腕と足の筋肉。

 そしていくつもの修羅場をくぐって来たと思われる身体の傷。

 一目見ただけでもただ者でないことが分かる。

 

「さて、あいつら倒してここまで来たんだ、少しは骨があるんだよな?」


「安心しろよ、お前よりも強いかもしれねぇぞ?」


「はははっ! 最近のガキは自信過剰だな! まさかヤクザに喧嘩を売って来るなんてなぁ……現実を教えてやるよ」


「あぁ……そうかよっ!!」


 俺は挨拶代わりに佐久間の腹部に拳を叩きこむ。

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