第227話

「うぐっ……な……」


「どうした? 現実を教えてくれるんだろ?」


「こ、このガキ……」


 俺はこんな奴よりも強い人の元で鍛錬をしてきた。

 こんな奴に負けてるいるようじゃ、俺はいつまでたってもあの人には……竹内さんには追いつけない。

 だから、こんなところでつまづけない。

 勝って帰るんだ。

 そして、光音が安心出来るようにするんだ。


「調子にのるなよ……がきぃぃぃ!!」


「うぐっ……」


 佐久間はお返しと言わんばかりに力いっぱい俺の腹に拳をぶつけてくる。

 重たい衝撃が腹に走り、俺はそのまま一瞬中に浮いた。

 なんて力だ、パワーは俺以上だ。


「げほっげほっ……」


「平斗、大丈夫かい?」


「あ、あぁ……流石は本物のヤクザだ……かなり場数を踏んでる」


 驚いてはいたものの佐久間は直ぐに俺に反撃をしてきた。

 ダメージは入っているだろうが、攻撃された直後の反撃であれだけのパワーなのだ、本気を出したら恐らくこんなんじゃすまない。


「そうかもね……でも平斗忘れてないかい?」


 高弥はそう言いながら、ゆっくりと俺の前に出る。


「今日は僕たち二人なんだよ」


 そう言って高弥は木刀を構えて、佐久間に向かっていく。

 

「もう一人は木刀か、直ぐにへし折ってやるよ!」


「そんな簡単にいないと思いますよ」


 高弥はそう言って笑いながら佐久間の攻撃を避ける。

 なんとか捕らえようとする佐久間だが、高弥のあまりの速さに目で追う事も出来ていない。

 

「くそっ! ちょこまかしやがって!」


「止まれなんて言わないで下さいよ、貴方の小物感が増しますから」


「なんだとぉ!!」


「そういうとこですよ」


 そう言いながら高弥は佐久間の背後を取り、突きを佐久間に食らわせる。


「がっ!!」


「攻撃なんて当たらなければ意味はないんだよね」


「このっ!」


「おっと」


 先ほどと同じように直ぐに攻撃を仕掛けてくる佐久間だが高弥はそれを見越して佐久間から距離を取っていた。

 そして、その瞬間に佐久間に隙が生まれた。

 俺はその隙をついて佐久間に蹴りを入れる。


「この野郎っ!」


「うがっ! こ、このガキィ……」


「よそ見はしない方が良いですよ」


「あがっ!」


 高弥と俺は反撃が来ないようにお互いに交互に佐久間に攻撃を当てる。

 だんだんと佐久間は体力を失っていき、息が上がり始める。

 正直拍子抜けだ。

 この部屋に入る前に感じた胸騒ぎは一体なんだったのだろうか?

 

「はぁ……はぁ……」


「平斗」


「あぁ、おかしい……」


 高弥も違和感に気が付いたようだった。

 なんだこの感覚は……。

 この男の実力は決して実力者のそれではない。

 なのにこの感じはなんだ?

 佐久間は隠している。

 このまま攻撃し続けるのは何か危ないと思った俺と高弥は佐久間から距離を取った。


「ほぉ……佐久間をここまで追い詰めるか」


「へへ……すんませんねぇ柳さん、こんな無様を晒して」


「何、気にすることは無い。このガキどもを確実に葬ってくれれば、私は過程は気にしない」


「それなら良かったです。だったら少しやんちゃしますわ」


 距離を取り様子を伺っていると、佐久間は懐から注射器のような器具を取り出した。


「おいガキ共、もう俺は優しくねぇぞ」


「なんだあれ……」


「平斗、もしかしてと思うけど……あれって」


 俺たちがそんな話しをしている間に佐久間はその注射器を腕に打ち込んだ。

 その瞬間、佐久間の身体の血管が浮かび上がり、腕や足の筋肉が一気に増えた。

 俺はこれと同じ現象を夏休み前に見ていた。

 そう……弓島が使ったあの錠剤の効果と同じなのだ。


「あぁ……弓島が使ってた薬と同じなら相当ヤバイ……」


「へへへ……さぁ、遊ぼうぜガキ共!!」


 俺はようやく佐久間から感じた胸騒ぎの正体に気が付いた。

 

 

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