第222話



 高弥が行った方向から物音が聞こえてくる。

 恐らく始まったのだろう。

 まぁ、大丈夫だろう。

 高弥は竹内さんほどではないにしろ、かなりの実力者だ。

 そこら辺のヤクザなら木刀一本で伸せるだろう。


「さて……俺の方は……まさかそっちから出てきてくれるとはな……」


「久しぶりだなぁ……ガキ」


「まさかあんたがここに居たとわな」


 目の前に現れたのは光音が学校で捕まった時に居たリーダー格の男だった。

 竹内さんにやられ、警察に捕まったはずなのになぜここに……。


「いやぁ~ここの依頼主には本当に感謝だなぁ、ぶち込まれた俺を檻から出してくれた上に、仕事までくれるんだ、しかもこんなに簡単で高給な仕事をなぁ……」


ニヤニヤ笑いながら俺を見る男、こいつには手も足も出なかった。

でも、俺だって何もしなかったわけじゃない。


「高給な仕事か……是非俺にも紹介してほしいもんだな」


「……お前……何か変わったか?」


「どうだろうな」


 俺の返答に男は先ほどまでのニヤニヤした笑みをやめた。

 真っすぐな目で俺を睨み、腕にメリケンサックをハメる。


「何をしたか分からないが……顔つきが変わったな……前よりも楽しめそうだなぁ」


「それは嬉しいねぇ、でもあんたが戦いたいのは俺じゃなくて竹内さんなんじゃないのか?」


「やめろやめろ、あれは次元が違う……もうあいつと戦うのはごめんだ。まさか今日来てないよな?」


「安心しろ、竹内さんは今日は来ない。変わりに俺がお前をぶっ潰すからな」


「面白い! 多少はやれるようになったんだろうなぁ!!」


 そう言って男は俺に向かって走って来た。

 俺も男を迎え撃とうと構える。

 しかし、そんな男と俺の間に一人の男が割って入る。


「おいおい、俺を忘れるなよ天田」


「園部(そのべ)、邪魔すんじゃねぇ! そいつは俺がやる!」


 笑みを崩さず、園部と呼ばれたその男は天田と呼ばれた男にそう言った。

 気配は二つ感じていた、しかしこの人からは殺気を感じない。

 敵である事に間違いはないだろうが……。


「初めまして、僕は園部和彦(そのべ かずひこ)、極道だよ」


「……俺は別に二人がかりでも構わないぜ」


「あはは、子供のくせに君は怖いねぇ~。まぁ安心しなよ、僕は君に危害を加えるつもりはないよ」


「はぁ!? 何言ってやがる園田!」


「だって、相手は子供だよ? こんな子供に大人二人なんて大人気なさ過ぎでしょ? ここは天田に任せるよ」


「っち! お前の仕事をしろよ、同じ報酬だろうが!」


「君がそいつは俺がやるっていたんでしょ? 僕は観戦してるから、早く倒しちゃってよ」


「簡単に言いやがって」


 仲間割れ……ではなさそうだ。

 しかし、この男はなんでここに居るんだ?

 一切の敵意を感じないどころか、俺に対して殺意も向けてこない。

 殺意むき出しの天田とは大違いだ。

 園部が観戦し始め、俺と天田は仕切り直し、再び構える。


「悪いなガキ、さっさと終わらせっからよぉ!」


「上等だよ、あの時とは違うとこを見せてやる……」


 俺たち二人は互いに構えて睨み合う。

 そして外に居た鳥が鳴いたのと同時に、俺と天田は同時に相手に向かって動き出した。


「うぉらっ!!」


「くっ!」


 先に殴りかかって来たのは天田だった。

 素早い拳を俺の急所目掛けて振って来る、動きは速い、パワーもある。

 しかし、竹内さんほどではない。

 俺は稽古を思い出しながら、一発一発に集中する。


「ほぉ……避けるのは上達したみたいだな!!」


「おかげ様でね!」


「なら、これはどうだ!!」


 天田は俺に向かって拳のラッシュを食らわせてくる。

 俺は両腕でガードしながら、天田の体力が切れるのを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る