第219話
*
夏のある日、俺は高柳家を訪ねていた。
「あら、島並様」
「山ノ内さんどうも、光音は居ますか?」
「えぇ、お部屋に、珍しいですね突然訪ねて来るなんて」
「えぇ、ちょっと光音に話があって」
「そうですか……ところで竹内君は一緒だったりしないんですか?」
「竹内さんはバイトに行きましたよ」
「っち……使えねぇな」
「おい、今お客さんになんつった!」
「いえ、何も申しておりません、お客様の聞き間違いでは? 良い耳鼻科を紹介しましょうか?」
「目を反らしながらよくそんなすらすら言えますね」
そんな話をしながら山ノ内さんは光音の部屋に案内してくれた。
光音の部屋は初めて入った時と違い、カーテンが開け放たれ、明るかった。
相変わらず机に座ってゲームばかりしているが、その顔付きは前とは違い明るかった。
「ん……どうしたの?」
「いや、ちょっとお前に話したいことがあってさ」
俺は部屋の中に入り、光音にそう言う。
山ノ内さんはお茶を出すと言って、いったん部屋から出て行った。
「話したい……こと?」
「あぁ……」
来る途中屋敷の中を見た。
使用人の数よりも警備らしき人間の数が多くかった。
なんだかみんなピリピリしている雰囲気で、まだ光音が狙われていることが良く分かった。
「外出、まだ出来ないのか?」
「うん……学校も危険だって……お父さんが言ってるから……夏休み延長」
彼女は笑ってそう言っていた。
しかし、彼女の眼は全然笑っていなかった。
それどころか、彼女が何かに怯えているような感じがした。
だからだろうか、俺の決意はどんどん固くなっていった。
「そうか……もし、この事態が収まったら、うちの学校の学際来いよ。案内してやる」
「うん………それまでには……外出できると良いな……」
「大丈夫だよ、きっと……」
俺は彼女にそう言って頭を撫でる。
そして、そのまま部屋を後にする。
「も、もう行くの?」
「あぁ、それだけ言いたかったんだ。じゃぁまた今度な」
俺はそう言って部屋を出る。
山ノ内さんに何か感づかれると色々面倒だ。
俺はそんなことを考えながら、光音の父親のいる場所を探した。
そして探すこと数分、書斎と掛かれた部屋をノックすると光音の父親の声が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
「君は……どうしたんだい? 無人島の時も娘が世話になったようだね、本当に君にはなんてお礼を……」
「俺、今から柳健三をぶちのめしてきます」
「………急に何を言うんだい」
「だから、貴方に確認したかったんです。貴方は本当に前の奥さんを見殺しに……」
「………そうだ」
光音のお父さんは難しい顔をしながら俺にそう言った。
*
町中にある大きな和風建築のお屋敷。
表札には柳と書いてあり、どこかヤクザの事務所を彷彿とさせる。
そんな家の前に俺と高弥は来ていた。
「平斗、話しはしてきたのかい?」
「あぁ、覚悟も決まった。だから行く」
木刀を持った高弥は俺にそう言った。
二人で本気を出さなければ俺たちは無事では帰れないし、光音もどうなるか分からない。
それでも俺はもうあとに引く気はなかった。
二度も光音は危ない目に合っている。
その度に彼女は恐怖を植え付けられているはずだ。
その恐怖の種を俺がここで取り除く。
「ねぇ、一つ聞いても良いかな?」
「なんだよ」
「僕も居たとして勝率はどれくらいあると思う?」
「……さぁな、考えるのも面倒だよ」
「そうか……じゃぁ、僕の予想を勝手に君に教えるよ」
「聞く必要なんてねぇよ……」
「そうかい、まぁそうだよね……どうせ……」
「「勝つんだ」」
俺たち二人は二人でそう言い、柳家のドアを開けた。
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