第219話



 夏のある日、俺は高柳家を訪ねていた。


「あら、島並様」


「山ノ内さんどうも、光音は居ますか?」


「えぇ、お部屋に、珍しいですね突然訪ねて来るなんて」


「えぇ、ちょっと光音に話があって」


「そうですか……ところで竹内君は一緒だったりしないんですか?」


「竹内さんはバイトに行きましたよ」


「っち……使えねぇな」


「おい、今お客さんになんつった!」


「いえ、何も申しておりません、お客様の聞き間違いでは? 良い耳鼻科を紹介しましょうか?」


「目を反らしながらよくそんなすらすら言えますね」


 そんな話をしながら山ノ内さんは光音の部屋に案内してくれた。

 光音の部屋は初めて入った時と違い、カーテンが開け放たれ、明るかった。

 相変わらず机に座ってゲームばかりしているが、その顔付きは前とは違い明るかった。


「ん……どうしたの?」


「いや、ちょっとお前に話したいことがあってさ」


 俺は部屋の中に入り、光音にそう言う。

 山ノ内さんはお茶を出すと言って、いったん部屋から出て行った。

 

「話したい……こと?」


「あぁ……」


 来る途中屋敷の中を見た。

 使用人の数よりも警備らしき人間の数が多くかった。

 なんだかみんなピリピリしている雰囲気で、まだ光音が狙われていることが良く分かった。

 

「外出、まだ出来ないのか?」


「うん……学校も危険だって……お父さんが言ってるから……夏休み延長」


 彼女は笑ってそう言っていた。

 しかし、彼女の眼は全然笑っていなかった。

 それどころか、彼女が何かに怯えているような感じがした。

 だからだろうか、俺の決意はどんどん固くなっていった。


「そうか……もし、この事態が収まったら、うちの学校の学際来いよ。案内してやる」


「うん………それまでには……外出できると良いな……」


「大丈夫だよ、きっと……」


 俺は彼女にそう言って頭を撫でる。

 そして、そのまま部屋を後にする。


「も、もう行くの?」


「あぁ、それだけ言いたかったんだ。じゃぁまた今度な」


 俺はそう言って部屋を出る。

 山ノ内さんに何か感づかれると色々面倒だ。

 俺はそんなことを考えながら、光音の父親のいる場所を探した。

 そして探すこと数分、書斎と掛かれた部屋をノックすると光音の父親の声が聞こえた。


「どうぞ」


「失礼します」


「君は……どうしたんだい? 無人島の時も娘が世話になったようだね、本当に君にはなんてお礼を……」


「俺、今から柳健三をぶちのめしてきます」


「………急に何を言うんだい」


「だから、貴方に確認したかったんです。貴方は本当に前の奥さんを見殺しに……」


「………そうだ」


 光音のお父さんは難しい顔をしながら俺にそう言った。





 町中にある大きな和風建築のお屋敷。

 表札には柳と書いてあり、どこかヤクザの事務所を彷彿とさせる。

 そんな家の前に俺と高弥は来ていた。

 

「平斗、話しはしてきたのかい?」


「あぁ、覚悟も決まった。だから行く」


 木刀を持った高弥は俺にそう言った。

 二人で本気を出さなければ俺たちは無事では帰れないし、光音もどうなるか分からない。

 それでも俺はもうあとに引く気はなかった。

 二度も光音は危ない目に合っている。

 その度に彼女は恐怖を植え付けられているはずだ。

 その恐怖の種を俺がここで取り除く。


「ねぇ、一つ聞いても良いかな?」


「なんだよ」


「僕も居たとして勝率はどれくらいあると思う?」


「……さぁな、考えるのも面倒だよ」


「そうか……じゃぁ、僕の予想を勝手に君に教えるよ」


「聞く必要なんてねぇよ……」


「そうかい、まぁそうだよね……どうせ……」


「「勝つんだ」」


 俺たち二人は二人でそう言い、柳家のドアを開けた。

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