第218話
*
「んで、お前は何しにきたんだよ」
「まぁまぁ、そんな迷惑そうな顔しないで~」
「そうな顔じゃねぇ、迷惑なんだよ」
シャワーを浴びて外に出ると初白が待っていた。
「どうせ暇ですよね?」
「あの汗まみれの姿を見てそう言うか」
「はい」
「お前の価値観どうなってんだよ」
呆れながら俺は私服に着替えて家の方に向かう。
そんな俺の後ろに高弥と初白が付いてくる。
「城崎さんには会えたのか?」
「いえ、もう帰ったあとでした」
「それは残念だったな」
「はぁ……先輩より城崎さんと会いたかったです」
「じゃぁ、城崎さんの家に行けよ」
こいつのこの俺を馬鹿にした態度はそろそろ本当にどうにかならないものだろうか?
俺がそんな事を考えていると高弥が玄関先で口を開いた。
「じゃぁ、僕はこれで」
「おい、帰るのか? 折角だしお茶くらい飲んでけよ」
「いや、まだやることがあるから遠慮するよ」
「私はお茶飲みますよ」
「お前には聞いてねぇよ」
高弥はそう言い残してそのまま行ってしまった。
あれだけ言うために来たのか?
まぁでもあれだけの情報を手に入れるのは大変だったろう。
もしかしたら、家に帰って休みたいのかもな。
それを無理に引き留めるのはダメだよな。
「仕方ねぇ、折角来たんだ上がっていけよ」
「そのつもりですよ?」
「当たり前のように家に上がってんじぇねぇ! てか、なんで俺よりも先に家に入ってんだよ!」
「先に部屋に行ってますねぇ~」
「あ、コラ待ちやがれ!!」
勝手に家に上がり俺の部屋に向かう初白。
まぁ、こいつがこういう奴だという事は理解しているが、やっぱり理解しててもムカつくな。
俺は初白を追いかけて部屋に向かう。
部屋では初白が俺のベッドの上に座っていた。
「はぁ……お前はなんでそう……まぁ良いや」
「あれ? 今日はうるさく言わないんですね」
「お前にそう言うのはあきらめたよ」
来週からはこいつと学校で顔を合わせなくてはいけなくなると思うと気が滅入ってしまう。
「先輩、なんで毎日稽古なんてしてるんですか?」
「え? それは体がなまらないようにだよ」
ふいに聞かれたその問に俺はとっさに嘘をつく。
俺も嘘をつくのに慣れて来てしまったようだ。
悪いことだ。
「そうですか……そう言えば竹内さんって人に会いましたよ」
「あぁ、あの人か……何か言ってたのか?」
「ゆっくり休めですって」
「そうか…」
休んでる暇なんてない。
俺には時間がない。
まぁ、あの人は修行をつける相手に無理を強いるような人じゃない。
だから今日までの俺の無茶にも近い稽古の様子を見て、初白に伝言を頼んだのかもしれない。
「あの人とは付き合い長いんですか?」
「まぁな……小学生からの付き合いでな、俺はあの人を本当の兄のように思っているよ」
「へぇ~なんか良いですね、そう言う関係」
「たまにはまともな事を言うんだな」
「なんですかその反応!! なんか失礼!」
「お前の今までの言動が言動だからな」
「まるで私の言動がいつもおかしいみたいじゃないですか!」
「いや、おかしいぞ」
「おかしくないです!!」
疲れた後にこいつの相手をするのはやっぱり疲れるな。
でも、俺はなんでこいつを追い返さず家に居れて茶まで出してるんだ?
「初白」
「なんですか?」
「夏休みが終わったら文化祭だな」
「そうですね、それがどうかしたんですか?」
「楽しみだな」
「ん? 急にどうしたんですか?」
「いや……何となく言いたくなっただけだ」
高弥に覚悟しろなんて言われたからだろうか?
俺は初白にそんな事を話していた。
必ず戻ると俺は遠回しに初白に言いたかったのかもしれない。
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