第215話



「なるほど……君たちも知らないのか」


「は、はい……」


「うーん、だとするとやっぱり一部の人間しか知らないのか……」


 僕は倒した敵に聞き込みをしながら僕はそんな事を考えた。

 ヤクザと思っていたこいつらもただのチンピラだ、本物の極道はこんなに弱くない。

 恐らく組織の下っ端を集めただけだろう。


「なるほど、ありがとう。あ、言っておくけど、仕返しなんて考えない方が良いよ? 下手な真似すると組織ごと潰されるから」


「な、なんなんだ……こいつ」


 まぁ、情報は結構手に入れられたな。


「さて、そろそろ僕は行くよ、じゃぁね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


「ん?」


 帰ろうとした俺を俺とヤクザの戦いを傍観していた、大柄の男が止めた。


「何? 僕は忙しいんだけど」


「いや……なんで俺たちまで……その……助けてくれたんだ?」


「え?」


 そんなの決まってる。

 あの状況だったらきっと、僕の親友は彼らを助ける。

 僕も彼と同じことをしたまでだ。

 それに、こいつらは金に目がくらんでいただけの一般人。

 それが後々ヤクザに殺されたんじゃ、目覚めが悪い上に父さんがまた残業だ。


「まぁ、細かいことは気にしなくていいよ、強いて言うなら警察署長の息子だからだよ」


 僕はそう言って大柄の男の前から姿を消そうとする。

 しかし、今度はフードを被った男が俺の前に立ちふさがった。


「あ、ありがとうございます……助けてくれて」


「別に良いよ。ま、これに懲りたら変な話には乗らないことだね」


 俺はそう言って、二人の前から立ち去る。

 年齢も同じくらいだったし、きっと小遣い欲しさにこんな真似をしたんだろうな。

 俺は再び平斗の家に向かい始めた。 

 しかし、僕を狙ったという事はもしかしたら平斗も狙われる危険性がある。

 そのことも一緒に話に行くか……。

 僕がそんな事を考えながら歩いていると、後ろから声が聞こえてきた。


「あ、真木先輩!!」


「あれ? 初白さん、どうしたの? こんなところで偶然だね」


「本当ですね。ちょっと島並さんの家に行こうかと思って」


「あぁ、そうなんだ。夏ももうすぐ終わりだからね、本格的に平斗を落としにいくの?」


「ま、まぁそんな感じです……」


 真っ赤な顔でそう言う彼女。

 平斗はモテる。

 それも男女問わずだ。

 だからこそ、平斗が傷つくと傷つく人も多い。

 今、僕と平斗がやっていることはそう言う人達に心配をかける行為だ。

 それでも平斗は高柳家のお嬢さんを友達だからという理由で救おうとしている。

 そう言うところが平斗の好かれる要因なのだろうが、逆に悪いところでもある。


「実は僕も平斗に用事があってね、一緒に行こうか」


「はい! もしかして遊びに行くところだったんですか?」


「まぁね。でも平斗が稽古中で電話に出られないみたいでね、約束はしてないんだ」


「夏休みでも稽古なんて、島並さんも大変ですね。それって家の手伝いですよね?」


「いや、多分平斗は自分の体を鍛える意味でもやってるんだと思うよ」


「そんな強くなってどうするんですかね?」


「確かにね……」


 彼女の嘘をつくのは心苦しい。

 平斗が強くなりたい理由は一つだけ、それはあの高柳家のお嬢様を守るためだ。

 自分以外の女の子の為に強くなろうとしているなんて、初白さんは知りたくないだろう。

 それにこの事を話せば初白さんはどうにかして平斗を止めようとする。

 だから平斗と話して、このことは僕と平斗以外には誰にも話していないのだ。


「こんにちわ」


「お邪魔します!」


 話をしているうちに僕たちは平斗の家にやって来た。

 

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