第210話

「はぁ……」


「初日から飛ばしすぎたか」


 シャワー室で俺は椅子に座って呼吸を整えていた。

 確かにかなりきつかった、でもこうでもしないと一週間で何も変えられない。

 

「大丈夫です……少し休んでからシャワー浴びるんで」


「そうか……先に行くぞ」


 竹内さんはそう言ってシャワー室を出て行った。

 やっぱりあの人は強い。

 俺なんかとは別次元の強さだ。

 持って生まれた才能なのか、それとも努力のたまものなのかは分からない。

 ただ強い、あの人はそういう人だ。


「クソっ……」


 今日は結局あの人の体に触れることすらできなかった。

 俊敏さや単純な力はもちろん、あの人は常に俺の行動を呼んでいた。

 野生の勘とでもいうのだろうか、とにかくあの人は武道を極めるために生まれたと言っても過言ではない。


「……少しくらい……俺もあの人に……」


 あの人の実力に届きたい、俺はそんな事を考えながら、シャワー室のベンチに寝頃がった。





 私の名前は山之内、高柳家で働くメイドです。

 実は最近、お嬢様が以前に比べて明るくなり、それを影ながら喜んでいます。

 お嬢様は学校でも友人が出来ず、ずっと家に籠ってゲームばかりしている方でした。

 しかし、ストーカー事件をきっかけにお嬢様に同い年の男性の友人が出来、お嬢様の周辺はその方によって一片しました。

 同い年の同性の友人も多くなり、その方々とも連絡を取り合っているらしく、幼い頃からお世話係をしている私にとっては嬉しい限りでございます。

 

「お嬢様、何をしているんですか?」


「ん、初白ちゃんと連絡とってた」


「そうでしたか、今日は一段と日差しが強いですから、何か冷たいお飲み物でもご用意いたしましょう」


「ありがと」


 お嬢様の事は幼い頃から見てきた。

 だから、主人とメイドという関係よりも、姉と妹という関係の方が近いのかもしれない。

 そんなお嬢様はまだ誘拐犯に狙われている。

 家の中は常に限界体制だが、前に使用人に紛れ込んでいたこともあり、屋敷の中は少しギスギスしていた。


「では、失礼します」


「ん? 貴方は……」


「あ、どうも先日は……」


 私がお嬢様に飲み物を持っていこうとしていると、旦那様の書斎から先日一緒に旅行に来た、島並様のご友人が出てきた。

 確か、今日は旦那様来客があって書斎に居たはず……まさか来客というのはこの方の事だったのでしょうか?


「えっと、確か真木さんでしたか、旦那様の来客はまさか貴方とは思いませんでした」


「あはは、そうりゃそうですよね。この間はお世話になりました」


「いえ、それよりも何か旦那様に御用ですか?」


「あぁ、ちょっと聞きたいことがあって……それじゃぁ僕は急ぎますので」


「そうでしたか、御引止めして申し訳ございません」


 私はそう言ってお辞儀をし、真木さんを見送った。

 あの方がなぜ旦那様と?

 何か接点なんてあっただろうか?

 私はそんな事を考えながら、飲み物を持ってお嬢様の部屋に向かう。





 僕は平斗に頼まれて高柳家の事を調べていた。

 高柳家に恨みを持っていそうな会社や団体を調べるためだ。

 こういう時、父さんが警察署長だと多少の無理が効くのでありがたい。

 まさか高柳家の現当主に話を直接聞けるとは、父さんに感謝だな。


「あの話からすると、恐らくお嬢さんを狙ってるのはあの会社で間違いない」


 俺は高柳家の当主の話や色々なところで仕入れた情報から、大体の黒幕の検討を付けていた。

 僕は高柳家を後にし、急いで平斗に連絡を取る。

 しかし、平斗は電話に出なかった。

 恐らく平斗は自分を鍛え直すと言っていたから、今も稽古で電話に出れないのだろう。

 

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